あなたの声

声が聞こえなくなってディーノとの連絡手段を失った。
僕は元々そんなに連絡を取る方ではないし、声の事をディーノに隠して、任務と偽って沢田に異国へ行くことに許可を出してもらった。
そんな僕が自分からディーノに連絡するはずもなく、限時点ではなにも伝えていなかった。ディーノから何度かメールが来て、そのメールを無視すると今度は一日に何度も電話が掛かってくるようになった。けれどそれも数日目までのこと。
先日僕はボンゴレ関係の連絡はすべて哲に任せて、自分の携帯を破壊した。真っ二つに割れたそれを見た時は少し心がすっきりした。

いつかは声が出るかも知れない。
けれどそれがいつかはわからない。失って困る連絡先なんてディーノしかなかった。
でもそんなディーノとも連絡が取れないなら携帯なんていらなかった。

見つかるわけない、そう思っていたけど僕はいるはずのない国であの人を捜していた。似た色の金色を無意識で目が追っている。
今日も多分そんな感じだったのだ。あまりにも容姿があの人にそっくりで、跳ねた髪は好き勝手あちこちを向いているのに柔らかそうな髪の毛。
きっとふわふわなんだろう。

そしたら見つけてしまったのだ。首筋に見える青い刺青を。

ディーノ、

その名を呼びたかった。でも呼べない。早く立ち去ろうと思った。でもどうしても、どうしても一目顔を見て確認したくてその場から足が動かせなかった。


『恭弥…?』


名前を呼ばれて僕はすぐに駆けだした。振り返らないで走って走って走る。後ろからは何度も名前を呼ぶ声が聞こえた。
目の前に信号が見えて、それが消えそうなのを見て僕は運が良いと思った。ギリギリで渡りきって向こう側で息を切らすあの人を見つけた。
じっと僕を見ていて、僕もあの人を見ていた。ずっと見ていると動けなくなってしまいそうだったので僕はまた走り出した。

早く屋敷に帰ろう。もう今日は外出をしない。帰ったら哲にもしばらくの間は外出を控えるように伝えないとね、彼はどこにいても見つけやすい髪型をしているから。

部下のいないあの人はへなちょこだから、また転んだりはしていないだろうか、怪我はしていないだろうか。気になることは沢山でそれからの数分、僕はずっとディーノ事ばかりを考えてしまった。
触れたくて堪らない、縋りたい。でも心配は掛けたくない。

屋敷につくなりどたどたと足音を立てて自室に入りメモを走り書く。それを哲に投げ捨てるように渡して心身角ベットに潜り込んだ。
抱きしめる相手のいない両腕はきつく枕を抱きしめた。唄を唄ってくれた声の高い鳥はもういない。自分の周りの世界の静かさに無理矢理目を閉じた。
今日はもうおしまい。
仕事は溜まるほどないから明日でも明後日でも明明後日にでもやればいい。


その日の夢は懐かしい屋上でのものだった。

煩いほどにあの人は僕の名前を呼んでいる。あの時は煩いと思う気持ちの方が多かった、けれど今は応えてあげたい気持ちの方が大きい。

ごめんね、ごめんねディーノ。今僕は声を失っているからあなたに応える術を持っていないんだ。


答えられないなら、もうあなたの声なんて聞きたくはないよ

[ 10/22 ]

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