どうかその手を掴ませて

「待てよ恭弥…!」

久しぶりに異国の地で偶然再会した愛しい恋人。本来ならばその場で抱きしめて久しぶり、元気にしてたか? とでも声を掛けてもおかしくない状況なのに何故かディーノは走っていた。
犬が走っている人を見かけると追いかけるかの様に、ディーノは前を走る恭弥を追いかけていた。
何度名前を呼んだか分からない。ディーノが何度呼んでも恭弥は立ち止まるどころか振り替える素振りも見せることはなかった。

「はぁっ、はぁ…っ」

恭弥がディーノよりも数メートル先で青の点滅した信号を渡り終える。それが赤に変わる前に辿り着くことはとても無理そうで、ディーノは仕方なく赤に変わった信号の前で立ち止まった。膝に手を当てて荒くなった息を整える。
こんな思いっ切り走ったのは随分と久しぶりの事で、鼓動の早い心臓はドクドクと音を立てていた。呼吸は整えようにもなかなか落ち着かず、ディーノは年齢による身体の衰えを感じていた。
ふと恭弥とのやりとりを思い出した。


***

「あなたって結構老けたよね」

ディーノと隣同士ソファに座ってテレビを見てのんびり過ごしている時、恭弥はふとそんな事を呟いた。あまりにも突然の急な恭弥の発言に一瞬ディーノは戸惑って、そして次には自分はそんなに老けてしまったのかとショックを受ける。

「恭弥、それ俺傷つく…」
「……」

ちらり、恭弥はテレビに向けられていた視線をディーノに向けた。恭弥の横に座るディーノは本当にショックを受けたらしくうーんうーんとうなだれていた。その姿に恭弥は声を出さないように笑った。
そんなにディーノが悩むとは思っていなかったのだ。昔みたいに「そんなことねぇよ!若いって!」と言ってきてくれると思ったらそうじゃなかったのだ。

「でも嫌いじゃないよ」
「え?」

パッとディーノが顔を上げると柔らかい笑みをこぼす恭弥と視線が重なる。長い付き合いだけれど恭弥がそんな笑い方をするのは最近になってからで、出会った当初は笑顔なんて考えられないほど表情は一つに等しかった。
自分をじっと見つめて笑う恭弥にディーノは心を奪われてしまった。

「今の方が昔よりずっと好きだもの」

そう言われて、まるで初めて恋をした少年の様にディーノの顔は熱を集めた。愛しい相手に言われるそれは嬉しくて堪らなくて、全てが愛しくてたまらなかった。
どちらからとも言えない接吻を交わしてディーノは恭弥の耳元で愛を囁いた。これからもずっと一緒にいような、と。

***


ずっとずっと何年先もこれからの人生を一緒に過ごしたい。そう思えたのは恭弥しかいなかった。
変わらない信号と目の前を行き交う車。じっとこちらを見つめてすぐにまた走り出す恭弥をディーノは見つめた。こんなところで離すつもりなんてない、離したくはない。

どうか、どうかその手を掴ませて欲しい。


もう二度と離さないと決めたから

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