sobae

「あれ、」

暇をもてあまし、部屋を徘徊するディーノは窓に近付くと声をあげた。恭弥はそれに返事をすることはなく、なんとなく視線をディーノに向ける。不思議な顔をしているディーノと目が合い、指を追って窓をみる。
雨が降っているだけだった。

「恭弥気が付かない?」

恭弥が視線を戻すと、ディーノは自分の疑問が恭弥に伝わっていないことに気が付いた。ディーノが伝えたかったのは確かに雨が降っている、ということであるがそれだけではなかった。

「雨が降ってきてるけど、それがどうかしたの」

応接室には置き傘があるので、恭弥は帰りの心配はしていない。それに時刻はまだ午前中で、放課後まで雨が降り続けるとも限らない。ディーノほど興味を示す対象が窓の向こうに、恭弥は見つけられなかった。
雨はいつ見ても空から落ちるだけで、ただそれだけだ。気象現象は人が左右することも出来ず、天気までをも支配したいとは、流石の恭弥でも思っていない。天候に対しては人並みほどの興味しかもっていなかった。

「ちょっとこっち来てみろって」
「なんで」

恭弥が作業の手を止め、今度は顔ごと返事をするとディーノは手招きしている。どうしても窓の外に見せたいものがあるらしく、恭弥が来るのを待っているのだ。その間もディーノは疑問を浮かべた表情をしている。

「な、おかしいだろ」
「なにが、」

ディーノがあまりにもしつこく呼ぶので、恭弥は仕方なく窓に近付いた。ディーノの前に立ち、窓の向こうを眺めてみるが変わったこは起きていない。思った通りただの雨だ。午前中ということもあり、校庭の先、校門前の道路を歩く人もいない。
気になったことといえば、視線の先、中央に見える住宅のベランダに洗濯物が干されていることだ。朝の天気予報では知らされていなかった、急の雨。それが洗濯物を濡らし、裾に向けて色が濃くなっていた。
でも、それだけだった。

「向こうの空みてみろよ」

ディーノの指が視線に現れ、窓の上へと上がっていく。見上げるとその先には空があった。

「あ」

そこで恭弥はようやくディーノの疑問に気が付いた。どのくらい遠いのかは分からない。けれど決して近くない空には雲一つなく、雨は降っていなかった。丁度そこが雲の切れ間なのかと思えば、その先はずっと晴れが続いている。
おかしな空だ、と恭弥は思う。「おかしいだろ?」頭上からの問いかけには素直に頷いた。視線を巡らせると、それは左右でも同じ現象が起きている。どうやら雨に降られているのはこの一体だけらしい。

「変な天気」
「だよなぁ。ここだけ別の世界みたいだな」

別の世界、そんな大したことじゃないだろうと思いながらも、恭弥は「そうだね」とだけ返した。

ここだけが別の世界。ディーノの言うそれは学校周辺を示すものだ。
けれど、恭弥にとっては応接室は常に別の世界で、ディーノが訪れるここだけが二人の世界だった。


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(日照雨)sobae
ある所にだけ降る雨


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