2012.07.21

*DH中心、ほんのりロマーリオ誕生日
*捏造設定がちょっとだけあります
*設定を一部提供していただきました



あの人の部下はあの人と同じくらい口うるさい人だった。

「恭弥、風引くなよ」

ディーノが言えばその隣の髭面の男も同じことを言う。前に風邪をこじらせて入院したことがあるというのを、きっと彼はディーノから聞いているのだろう。それにしても口うるさいと感じることは少なくなかった。
ディーノは勝手とは言え、仮にも僕の先生であるから(認めていないけど)生徒の心配をするのは理解出来る。しかし部下であるあの男も同じことを思うのは、僕にとっては不可解でしかなかった。マフィアではファミリーとかなんとか言うらしいけど、そんなもの言葉上のものでしかないと僕は思っている。
ファミリーは日本語に直せば家族。ボスとその部下全員が家族なんて考え方、大勢で群れることをしない僕には分からなかった。分かりたいとも思わないし、分かる必要もないと思う。だって僕は風紀委員会をファミリーだなんて思ったことがないから。
家族じゃない。委員は全員風紀を正すための委員でしかない。僕の言う通りに動き、それ以上でもそれ以下でもない存在でしかない。家族なんて考えをもったら面倒に決まってるじゃないか。

「ねぇ、あの人」

ディーノが並盛に何回か来る様になって、髭面の部下は草壁と仲がよくなったらしい。僕たちが修行で戦う時は二人して少し離れた所に並んで立ち、何か話をしている。今日みたいに屋上ではなく応接室にいる時は、二人でどこかにいっていることが多かった。
それは今日も例外じゃなく、僕はディーノと隣合わせでソファーに座っている。いないからこそ僕はあの男のことを、ディーノに少し聞いてみようと思ったのだ。

「あの人?」
「あなたと一緒にくる髭面の人」
「あぁ、ロマーリオな! 」

名前なんてどうでもいいのに、とディーノの返事を聞きながら思ってしまう。僕はディーノの名前すら呼んだことがないし、名前なんて知らなくたって相手が気付いてくれれば十分だと思っている。

「なんであなたと同じこと言うの」
「同じこと?」
「あなたが風邪引くなって言えば、あの男も言う」

意味が分からない、そう僕は続けた。だって考えても本当に意味が分からないのだ。ディーノがボスだからここまで付いて来てるだけなのに、どうして僕の心配をする必要があるんだろうか。どうしてそんなことを言うのか。

「嫌なのか?」
「嫌とかそうじゃなくて、発言の意味が分からない」

嫌ではないのだと思う。多分。これは嫌とかそうゆうはっきりしたものじゃなくて、単純に意味が分からないからなんかもやもやしてて気持ち悪いのだ。しかも一度気にしだしたらそればっかり気になってしまう。

「恭弥のことを心配してんだよ」
「それ」
「それ?」
「なんで心配なんかするの」

心配なんかいらない。僕は誰かに心配なんてされたくないし、ディーノに心配されるだけでも鬱陶しいのだ。ディーノは僕を子ども扱いしすぎている。今だって頭を撫でて来たし、はらえば「はらうなよ」と言ってくる。うるさい。なにをするにも何かを言ってくる。

「心配だからだよ」
「なんで」

すぐに答えればディーノは困った表情を浮かべた。僕だってそうゆう顔したいぐらい困ってるのに。

「なんでって…その質問切りないんじゃねぇの?」
「さぁ、どうかな。僕が納得すればすぐにでも終わるさ」

ディーノの切り返しにちょっとムカついて、フンと腕を組んで深く座り直す。ディーノがますます困った顔をしてため息をついたり、眉間の皺を濃くしたりするからだ。僕からすれば難しいことでもなく、単純明快なことだ。ただその"理由"さえ分かればいいのだから。

「うーん」

今度は唸り声をあげてしまった。やっぱり本人に聞かないと分からないのかもしれない。いくらボスでも部下の心理までは理解してないらしい。

「じゃあ質問を変えるよ。家族でもないのに、なんで他人の心配なんて出来るの」
「なんでって、心配だからだよ」
「どうして」

さっきまでしていたやり取りとすごく似た会話が、また繰り返される。すぐにディーノは飽きてその質問は切りがないと言うのだろう。そうなれば僕はまた質問を変え、またディーノが答えることになる。もしもまた同じことになる様ならば、僕はあの男にはっきり聞いてみるしかない。

「なんでなんでどうしてって、お前なぁ…。家族でなくても、血がつながってなくても人間心配することもあんの!」
「心配してどうするの、利益もないのに」
「利益とか不利益で心配するんじゃねーって。ただ普段会ってるやつが急にいなかったり、連絡が取れなくなったら不安になるだろ? だから心配するし、風邪引くなよ〜って言ったりすんの」
「そんなのおかしいよ」

そう言えばディーノは大きなため息をついた。
でもわけが分からなかった。ディーノの言うことは分からない、僕はそんなこと思わない、不安になったりしない、心配なんてしない。全部全部僕には一つも当てはまらないから分かりっこなかった。

「まぁ恭弥が分かる分かんないは別としてさぁ、俺はそう思うから心配してる」
「あなたのことは聞いてないんだけど」

なんなんだよお前! と、今度はディーノに怒鳴られてしまった。何をピリピリしてるんだろうか? 大人って本当、変な所がある。でももっと変なのはディーノが怒っても不愉快に感じないところだ。
今までだったらこうして誰かと話すのも群れるのも大嫌いで仕方なかったけれど、ディーノと話のは面白かった。でもこの結果は面白くない。全然面白くないしなにも解決していない。

「あー、もしかしたら、あれかも」
「なに」
「これは俺から話すのもあれなんだけどさ、まぁボスの俺ぐらいしか話せないことなんだけど」
「早くして」

う〜〜〜〜〜ん、とちょっとだけ唸ったあとにディーノが切り出した。それなのに引っ張ってばかりで僕は先が気になって仕方ない。早く本題に入りなよ。僕は待たされるのが嫌いなんだから。

「生きてたら恭弥くらいの年齢なんだよ」

普段はいらない情報までべらべらよく喋るディーノが、始めて言葉足らずに説明をしてきた。この流れで言ってくるとは思えなかったくらい、それはちょっと重いあれだった。生きてたらということは、今は生きていないということ。生きていないということは、すでに亡くなっているということ。
僕くらいの年齢で、あの男の。

そこまで思考を巡らせれば、それ以上の時間は掛からなかった。つまり、

「僕を重ねて見てるってこと、」
「まぁそうなるかな」

(あの男は自らの子供と僕を重ねて見ているのかもしれない)

それからディーノに僅かばかりではあるが、その話の詳細を話してもらった。ディーノも他人の話をあれこれ喋る気はなかったらしい。話はシンプルにまとめられたものだった。まぁマフィアともなれば人の生死に隣接している様なものだろうし、そうゆう人間がいてもおかしくはない。
でも僕はこの時まで知らなかったのだ。僕自身がどんな世界に足を突っ込んでいるのか、生と死が隣り合わせの世界に自分がいるということを。ショックを受けたとかそうゆうのはないけど、僕はなにか衝撃を受けた様なそんな感覚が思考にこびりついてしまった。だってこんなの、重すぎる。
重ねて見られてるとか、生きてたら今僕と同い年で、中学生で、学校に行って友達と遊んだり。

そんな話をされてなんとも思わないほど僕は大人じゃなかった。

表に出さないことは出来ても、出さないだけだ。すぐに気を紛らわせることも、なんとも思わなかったふりなんて出来なかった。

「恭弥には重かったかな」
「別、に」
「ごめんな」

気にしてないって言ってるのに、ディーノは僕の肩を引き寄せ自分に身体を寄りかからせた。肩口では手がぽんぽんとリズムを繰り返す。それは止まることなく、ディーノは話を続けても止まらない。僕は引き寄せられたディーノになんだかすがりつきたい様な、なんとも言えない気持ちになって、らしくないと思いながらもディーノの服の裾を控えめに摘まんだ。後頭部から体温がじわじわと伝わってくる。

「恭弥には言わなくてよかったことかもな」
「でも知らなきゃ分からないままだった」
「なんでなんでどーしてが?」

僕はディーノからぱっと離れ、振り返ってディーノを睨みつけた。

「その言い方は馬鹿にしてるだろ」
「馬鹿にしてねぇっ、って」

言ってまたぽすん、と先ほどまでと同じ様にディーノに寄りかかった。この際今のぐるぐるした気持ちが落ち着くまでは離れてやらないことにしよう。急に動くなよなーとかなんとかいう声が聞こえるが聞こえないふり。だってディーノじゃなきゃ僕もこんなことしないんだろうなぁって、思うのだ。
再びリズムを取り出す肩を気にしながらそんなことを考えていた。なんだかディーノとは他の人とは違う距離が取りやすいらしい。離れすぎているよりこれくらい近い方が落ち着く、のは自分でも驚くことだけどでも実際そうなのだから仕方ない。ほわほわとか、ふわふわとか。そんな表現が似合う気持ちになるのだ。

「あ、そうだ」

ディーノが思い出した様に言った。

「納得ついでに一個言ってやって欲しいことがあるんだ」
「変なことはやだよ」
「変じゃねーよ。誕生日おめでとうってさ」

(…しかも今日は誕生日だったらしい)

***


「誕生日おめでとう」

草壁と一緒に応接室戻ってきたあの男に、すれ違い様に言ってあげた。なんとなく面と向かって言うのは恥ずかしかったし、理由を問われたら面倒なのでいかにもついでみたいにしておいた。

「知ってたのか?」
「はねうまがさっき言ってた」

振り向いて言ってあげればなんだか嬉しそうなあの男と、その少し後ろでディーノが笑顔で立っていて変な感じがした。むずむずするというか、恥ずかしいとはちょっと違ってて、なんて言うのか分からないんだけどさ。
僕が言えば草壁もおめでとうございます、なんて横で言ってて。どこから現れたのか、開け放した窓から戻ってきたヒバードは誕生日の歌を歌い出して。ちょっと変な光景だなぁなんて僕は思ってしまった。

でもファミリーがちょっとどうゆうことなのか分かった気もした。ちょっとだけ、ね。

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