奇妙な三角関係

恭弥の連れてる"ヒバード"と呼ばれる鳥は実に厄介だ。


「恭弥」
「ちょっと待って」

日本にやって来たのは先月ぶり。連絡は疎かにしていなかったと言っても、メールの大半は無視され数通に一回返信が来るだけ。電話は時差のこともあり滅多に掛けることがない。そんな状況で会いに来たというのに、恭弥はさっきからヒバードとやらの相手てばかりをしている。
むしろヒバードしか相手にしていない。まるで俺はここにいないかの様に、ヒバードを構っている。そんな状況が数分、10分程度なら俺も我慢出来たかもしれない。しかしそれはすでに俺がここに来てから30分が経過していた。
名前を呼べば待って、と言われる。もう5回目になるだろうか、名前を呼ぶ度に恭弥の声は少しずつ低くなっている。つまり少しずつ機嫌が悪くなっていっているのだ。

「きょーや」
「この子が先だよ」
「もう30分も経ってんだけど」
「あなたとの時間はまだ沢山あるでしょ。待ってなよ」

俺が幾ら声を掛けても恭弥は視線すらこちらに向けようとしない。ヒバードの歌に付き合うだけではなく、今度は何か餌の様なものを与え始めた。今の時間は夕方、放課後だ。どう考えても飯の時間としておかしいだろ。
そんなことを思いながら恭弥の可愛がるヒバードに視線を送る。

実を言うと、俺はあいつが苦手だ。ヒバードの小さな目と小さなくちばし。そのくちばしは上下にしか開かないはずなのに、目が合うと何故かニヤリとした笑いを向けられた気分になるからだ。薄く開かれた瞳は絶対に俺を笑っている(様にしか見えない)。
あいつが俺が惨めで寂しい思いをしているのに、わざと恭弥に絡んででいる様にしか見えないのだ。
やっと恭弥がヒバードから視線を外し、俺の方を振り向いたかと思うと、ヒバードは何故か俺の周りをくるくると飛び始めた。

「ディーノ! ディーノ!」
「ヒバードも嬉しいの?」

ヒバードは恭弥の言葉に同意するように、今度は恭弥の周りを旋回する。ヒバードは鳥の中では頭の良い鳥だ。人の言葉を覚え、声に出すことができる。簡単な内容であれば会話も可能だ。
だからこそ俺は思う。ヒバードは絶対に俺を歓迎していない。

「ヒバードも久しぶりだな、…って!」

その証拠に、恭弥の頭に舞い降りた奴を触ろうとしたら指先を挟まれた。そしてまたあの表情だ。目を細め、上がるはずのない口角をあげてニヤリと笑っている。

「ちょっとあなた、なにしたの?」
「なにもしてねぇって! いってぇ」

なにもしてない、俺は恭弥の様に触れようとしただけだ。それだけなのに、指先を思いっきり挟まれたのだ。

あぁ、全く! "ヒバード"という存在は実に厄介だ!



そしてきっとこの小さな番人を認めさせることが、俺の乗り越えなくてはならない第一の試練だ。

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橋本様リク
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