白百合達の午后 D♀H♀+10

*ディーノも恭弥も女の子♀です
*先天的

幼くしてボスを継いだあの日、その地位でファミリーを守ると誓い、自分の弱味となるものを封印した。それは自分自身が女であることだ。この世界で女は武器になるとも言えるが、ボスという地位では危険の方が大きかった。
ファミリー全員での暗黙の了解となり、それは新しいものには引き継がれることのない隠された事実となった。性別を隠すことに躊躇いはなかった。…というよりも躊躇う暇などなかった。
頭のいなくなったファミリーはいくら大きなファミリーであっても狙われやすく、すぐに誰かが後を継がなくてはいけなかった。

『いざという時はお前が』

先代の父が残した言葉を決行する以外の術が、その時のディーノにはなかった。


偽りの性別に後悔したのは、同盟ファミリーの守護者を生徒に持ってからだ。難癖のある性格と聞いてはいたが、性別は同じ女と分かっていれば恭弥は扱いやすく、強がりな性格は可愛くも見えた。
だから俺は素直に恭弥を可愛がり、誰よりも俺に懐く恭弥を拒むこともしなかった。しかしこれが良くなかった。俺は芽生えてはいけない感情を芽生えさせ、そして偽りの現実が事態を悪化させた。
俺は恭弥が同性と知っていて、いくら可愛い、好きと思ってもそれらに恋情の類は含まれない。しかし恭弥はそうではなかったのだ。俺を男だと思い、恭弥はそれが異性に対する"恋"と思い込んでしまったのだ。

「好きってなに?」

休憩中の他愛ない会話に恭弥はそんな一言を投げかけた。それに驚いたのは一瞬、恭弥でも恋愛に興味があるとは知らなかった。

「好きな相手でも出来たのか?」
「…その顔止めてよ。そんなんじゃない」
「んー…、ならその質問に答える必要はねぇよな」

恭弥が話し掛けて来ることは滅多にない上に、中学生らしい質問に少し意地悪をしたくなった。恭弥が質問してきたくせに、素直に相手がいることを認めないから余計に。

「あなた先生なんでしょ、」

その発言にまた、驚かされた。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだ。恭弥は初めて会った日から、俺が家庭教師であることを認めようとはせず、師匠であることも認めてくれなかった。
それなのに、こんな簡単な質問に答えて欲しいがために俺を認めてしまったのだ。先生であると。

「しょうがねぇなっ、んじゃその先生が教えてやるよ」

ぽん、と恭弥の頭に手を置いてやると、いつもの通り鋭い視線が向けられる。それと同時に子供扱いしないでと言われてしまった。こうゆう子供っぽいところが恭弥の可愛いところだ。
自分が男だったら惚れてたのかな、なんて考えて、そこで思考を止めた。それを考えるのはあまりにも無意味で、今は目の前の生徒の質問に答えてやらなければいけなかったからだ。


それから俺は恭弥に好きという気持ちがなんなのかを教えてやった。例えば毎日その人のことばかり考えてしまったり、少しでも会えれば嬉しくて、目を合わせたりするだけでドキドキしたりすること。そんな諸々の一般論を聞かせた。
何故一般論かと言うと、俺には恋愛の経験が全くと言っていいほどないからだ。性別を隠して男になっても、感情の全てが男になるなんてことなかった。同性に想いを持つことに偏見はなかったが、俺にはそうなりたいと思う気持ちはない。
将来的には世継ぎが必要になることから、いつかはこの秘密も明かすことになるんだろう。今はそうとしか考えることが出来なかった。まだ20代に入ったばかりの俺には、それはこの先の将来でどうにかすれば良い問題になっていた。

しかし、そうもいかなくなったのがそれからしばらくしてのことだ。恭弥の質問に答えてやったあと、なんと恭弥が俺に対して好きだと言ってきたのだ。
勝手にホテルに付いて来る様になり、泊まる時もあった。俺は女であるから間違いが起きることはなかったが、恭弥はそれを狙っているのか色々なことを試してきた。俺の前で着替えをしてみたり、同じベッドに入ってくることもしばしば。一緒にシャワーを浴びようとしてきたこともあった。
とにかく恭弥はらしくないことを続け、恋というものの恐ろしさを俺は知った。しかしいくら恭弥が変わっても、俺が変わることはない。実際になかった。だから俺は耐えきれずに事実を話すことにしたのだ。

「あのさ、もうそうゆうのやめろよ」
「・・・そうゆうのってどうゆうの?」

久しぶりに来た日本。学校の屋上で一戦交えた後、恭弥は当然という顔ぶりで俺の後を付いてホテルへくっついて来た。質問すれば、何のことか分かっているはずなのに知らないふりをする。

「俺のこと好きなのは分かったから。でも、俺には意味がない」
「それって僕には可能性どころか、チャンスも与えたくないってこと、」

何度も恭弥がホテルに来ることによって、いつのまにか出来てしまった2人の定位置。長いソファーには恭弥が座り、垂直に並んだ1人掛けのものには俺が座る。そこでPCを弄ったり、簡単な書類の確認をいつもしていた。
しかし今日はそれをすることはなく、視線は恭弥に向けられていた。恭弥の発言と一瞬見えた表情の変化に言葉をミスったと知る。

「あなたって優しいふりをして、酷いことをするよね」

皮肉の込められたその言葉の真意が、俺には分からない。単に好きになれないことだけが原因ではなさそうだ。

「全部僕のせいにするつもり?」
「恭弥のせい…?」

言われてる意味が俺には分からない。俺は何かの責任を恭弥に押し付けたことはなく、それは今も変わらない。そもそも恭弥が何に対して言ってるのかが分からない。恭弥が俺を好きになってしまったのは、俺のせいとでも言いたいのだろうか。
俺に出会ったことが、俺みたいな人が存在しいることが悪いと。それは話の論点がずれている気がする。
思うことは色々あるが、最後まで恭弥の話を聞いてやることにした。

「あなたのことが好きだって言ったでしょ」
「今も言っただろ、俺にはそんな感情意味がないって」
「意味がないってどうゆうこと」
「その気持ちには、応えられないってことだ」
「どうして」

どうしてって…、と言葉を続けようとしてやめる。今そう返しても、また同じことを聞かれそうだったからだ。同じことを繰り返しても答えは見つからない。意味がない。

「あなたを好きになっちゃいけない理由はなに? 僕が子供だから? あなたは先生で、僕が生徒だから? あなたは違うファミリーの人間だから? キャバッローネのボスだから?」

恭弥普段の姿が想像出来ないほど、よく喋っている。こんなに喋ってくれて、感情を露わにしてくる日があるとは思わなかった。それほど恭弥にとって"好き"という感情は、恭弥に影響を及ぼしているのかもしれない。

「恭弥のことは好きになれないんだよ…ごめん、」

冷静に考えていた俺だが、冷静を装っているだけで実はそうでもない。真剣な恭弥に対して、俺は他のことを考えるくらい片手間に話を聞いていた。それは話を聞く気がない、という理由だけではない。
正しくは聞く気がないのではなく、聞きたくないのだ。俺のことなんて好きになって欲しくなかったから。恭弥の好きは風邪を引いた時の熱の様なものだと思っていた。微熱があるとある日気が付くように、恭弥はある日俺のことを好きかもしれないと気が付いた。
気が付いたからこそ俺に「好きってなに?」という質問をしたんだろう。そして好きと告白した。

「ちゃんと理由を教えてよ」
「…今言っただろ」
「曖昧じゃなくて、もっと具体的に教えてよ」
「俺が、

女だからだよ」

そんな簡単な一言を言うだけなのに、馬鹿みたいに緊張した。本当は性別のことはずっと言わないつもりだった。言う必要性も、その意味もないと思ったからだ。



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