桜くらくら

並中の校庭の桜が咲く時期になると、応接室の窓は開け放される様になる。そして応接室の主、雲雀恭弥はその窓際でじっと桜を眺めて過ごす。それは2年や3年からすれば毎年のことであり、1年からすれば恭弥の見慣れない姿だ。
そして恭弥に出会って1年も経たないディーノにとっても、それは始めて見る恭弥の行動だった。

ディーノは恭弥の外を眺める理由を知らない。3月になり、校庭の桜が咲き始めた頃からその行動は始まっていた。最初は窓の外を時折気にする程度。恭弥はディーノがくる日はいつも通り屋上で待ち、ディーノが現れるなり二言目には「相手してよ」といつも通りだった。
それが桜が咲き始めてから恭弥は応接室に居る様になり、いつも変わらぬ椅子に座っては外を眺めているようになった。

「桜、好きなのか?」

今日もディーノが応接室を訪れると、恭弥はやはり窓際に座っていた。視線はいつも通り外に向けられており、桜を見ていると容易に想像がつく。
ディーノが声を掛けるとようやく存在に気が付いたらしく、じっとディーノを見つめていた。

「好きだった、かな」

少しだけ溜めて、恭弥はそう言った。だった? すぐにディーノの頭に疑問が浮かぶ。飽きるんじゃないかというほど、毎日恭弥は桜を見ている。それなのに桜が好きな対象だったのは、もう過去のことらしい。それなら今見ている理由はなんなのだろうか。

「でも嫌いじゃないんだろ?」
「まぁね。嫌いなら見ないよ」
「じゃあ花見でもするか?」
「…あなた僕の話聞いてなかったの」

好きではないが、嫌いでもない。それなのに毎日飽きもせず桜を見つめる恭弥。ディーノは恭弥がなにを考えているのか分からなかった。だから花見に誘ったのはなんとなくだ。それと少しの興味だ。
ディーノは日本に来て桜を何回か見たことはあるものの、花見というものは一度もしたことがなかった。だからしてみたいと思ったのだ。出来れば恭弥と一緒に。

「僕は行かないよ」
「嫌いじゃないんだろ?」
「嫌いじゃないけど、苦手になった」

苦手と聞いて、聞かなきゃ良かったと思ってもすでに遅い。ディーノはなにを返そうか悩み、部屋の空気は少し重くなる。

(あー…、やらかした)

恭弥は感情を言葉にすることが少なく、ディーノもそれに気が付いてる。口には出さなくても色々考えていて、少しデリケートな部分が恭弥にもあることを知ってた。だからディーノは普段から気言葉選びに気を使っている。そして今日、その言葉選びが失敗した。大失敗だ。

「六道骸、知ってるでしょ」
「あ、あぁ。知ってる」
「そうゆうこと」

名前を出されてなんの関係があるのかわからなかった。恭弥と骸の間になにかあったことは知っていたが、当時はディーノが恭弥と出会う前。リボーンから簡単に聞いた話なので詳しくは知らなかった。また骸の名前は恭弥にとって禁句らしく、このことは聞くなとリボーンに言われている。
色々あり、恭弥が思うように戦えず一度は負けた、とだけ聞いたことがある。もしかしたらその"負け"が関係しているのかもしれない。ディーノが考えて導き出した答えはそれだった。それでもそこまで聞いてしまえば、なんで、と聞いてしまいたくなる。

「聞かないの?」
「なにを?」
「理由。気になってるんでしょ」
「あー…まぁ、そりゃあ」
「教えないよ」

余計に気になることを…!
ディーノはそう思わずにはいられなかった。気になる言い方をしておいて、恭弥はさらにそれをつついてきた。聞いてくださいとでも言うかの様な態度に、聞こうと思えば教えないと来た。恭弥にその気がないなら聞けるはずがない。
理由はただ気になるもの、で終わってしまった。

「でもいつか、僕が話したくなったら教えてあげる」

恭弥は椅子から立ち上がり、軽く腕を伸ばしてディーノに向き合うと言った。

「だからその時まで一緒にいてよね」

それを言われて、ディーノは良いとも駄目とも言えず、頷くことも出来なかった。何故なら恭弥がそんな風に言うことは今までなかったからだ。そんなこの先の未来のことを言うなんて、今までに
一度だってなかったのだ。
少し照れ臭そうに言った恭弥につられ、ディーノもなんだか照れ臭くなってしまった。余計に言葉はつまり、抱き寄せて「離れるわけないだろ」の一言を言うので精一杯だった。

恭弥の未来には今も変わらず側にいる人がいる様だ。
どうやらそれは俺らしく、恭弥もそれを望んでいるらしい。

この先もずっと一緒にいられるならば、それはとても嬉しいことだ。



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