La mia sposa.-3

気が付けば何時の間にか新年を迎えていて、すでに数日食事もしてないことに気が付いた。摂取してるのは部屋に用意された水くらいだ。
静かなことに気が付いて時計を見ればまだ朝には早い時間だった。静かに扉開けて部屋から出て行く。行く場所もなくてなんとなく中庭に向かった。

中庭には色鮮やかな花壇があり、恭弥はそこから広がる景色を見るのが好きだった。中庭に続くテラスの階段に腰掛け、視線を下ろした。花や茎に水滴が溜まっている。どうやら夜中にでも小雨が降ったらしい。段々に明るくなってくる日差しにそれらがキラキラち反射し始めた。

「綺麗…でも目に痛い、な」

外の光を浴びるのにかなり時間が空いてしまったせいか、反射するのを見るだけでも恭弥の目は光を拒む。
痛い、痛いな、なんて思って入れば目以外にも痛いことに気が付いてしまった。恭弥は胸が痛かった。ディーノに戻れと言われたこと、一方的喧嘩みたいになってしまったこと。
こんな結果になってしまったことが情けなくて、同時に恥ずかしかった。必要ないと行ったボンゴレの自室。ここにもいる場所がなくて、この後どうしたらいいのかも分からない。やっぱり必要だなんて、今更言えるはずもなかった。

「言わなきゃよかった、あんなこと」

それは必要ないと言ったことにも、ボンゴレでは暮らさないと言ったことにも、あの時もういいと話を切ってしまったことにも言えることだった。気が付けば膝の上に置いた手にポロポロと水滴が零れ落ちていた。

「いたい、」

自業自得で自分で傷付いた。それなのに胸が痛むのだ。どうしようもなく情けないのに、それでもディーノのことを考えてしまうから。ごめんなさいも逢いたいも寂しいも、もう言えなかったらどうすればいいのだろう。

キラリ、

ふと水滴の落ちた左手に光が反射する。それは小指にはめたピンキーリング。去年ディーノに贈られたものだ。”また一年一緒にいられます様に”そう願いを込めて。願いは最後の最後で叶わなかった。

「約束したのにっ」

でも駄目だった。願いはあと少しの所で叶わなかった。悲しい、苦しい。ぼろぼろと溢れ出す涙は止まりそうもなく、恭弥の手を滑り落ちどんどん洋服を湿らせてゆく。

「ごめん、」

それはディーノの声だった。もう少しで大きな声でも漏らし、泣いてしまいそうだった恭弥の涙が驚きで止まる。

「約束、破ってごめん」

ディーノは少し前から恭弥を見ていたのだ。喧嘩したその日、ディーノも久しぶりに一人で眠るベッドに違和感を感じていたのだ。次の日、恭弥の姿を見かけることはなかったので、帰ってしまったのだと思っていた。
それとなくロマーリオに尋ねて、初めて部屋から出て来てないことを知った。本当はその時に部屋に行こうかとも思ったが、行った所で掛ける言葉が見つからなかった。
突き放したいなら構っては駄目だ、そう思い行くのをやめた。それでも気になってしまい、夜は熟睡出来なかった。

浅い眠りから覚め、部屋を出た所で恭弥を見つけたのだ。廊下にある中庭に向けられた窓。
二階から見ても中庭の所にいるのは恭弥だった。慌てて向かえば恭弥は泣いていた。やっぱり掛ける言葉が思いつかなかった。
けれど恭弥の視線の先の指輪、”約束したのに”という言葉を聞いて自然にごめん、と出ていた。そうだ、約束をしたのだ。去年、今年も一年一緒にいられますようにと。
その指輪を贈ったのはディーノだ。

「なんで謝るの。僕はもうここにいる理由がないから、今日にでもあっちに行くよ」
「ごめん恭弥、そのことなんだけどさ。やっぱりこっちにいてくれないか?」

近付いて、ディーノは恭弥の隣、同じ様にテラスに腰掛けた。

「なん、で」

急に意見の変わったディーノに恭弥は驚いた。あんなに戻れと言っていたのに、それなのにディーノからいてくれなんて言われると思っていなかった。ディーノも自分から言うとは思っていなかった。
しかし今恭弥を手放すべきではないと分かったのだ。自分には恭弥が必要で、恭弥にもきっと自分が必要なのだと。

「俺には恭弥が必要だ。それに、渡し忘れてたものがあるんだ」
「渡し忘れたもの?」
「これだよ」

そう言うとディーノは首のネックレスを外した。それはシンプルなチェーンに二つの指輪を通したものだった。二つの指輪に一つはディーノの物で、もう一つは恭弥に渡す予定だったものだ。恭弥がボンゴレに戻る日に、願いが叶った証として新しく指輪をあげるつもりだったのだ。今度は左手の薬指に。

「去年贈ったのは願いを込めてだから、今年は本物を持っていて欲しかった」

ディーノは恭弥の涙を裾で吹くと、恭弥の左手を手に取る。小指にはめられた去年贈った指輪を外し、新しく薬指に新しい指輪をはめる。

「もしも恭弥が嫌じゃなければ、これを受け取って欲しい。そしてこれからはそれを持ってて欲しいんだ、ずっと」
「これって、」
「婚約指輪だよ。これがあればファミリーが違っても、ずっと一緒にいれるだろ?」

左手を視線の高さまであげると、薬指に新しく光ものがあった。婚約、先程ディーノが言ったことの意味を考えた。

答えなんてもうとっくに決まっている。

ディーノの手に残るもう一つの指輪を手に取ると、ディーノにされた様に恭弥も指輪をはめてあげた。

「これからもずっと、ずっと一緒にいてくれるんでしょ?」

目元の雫を指で払い、恭弥は笑って言った。するとディーノも笑顔になり、そのまま恭弥を抱きしめた。




(--La mia sposa.(彼女は俺の花嫁です)

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