La mia sposa.

去年ディーノは恭弥に指輪を贈った。贈った指輪は左手の薬指のものではなく、小指のものだった。左手のピンキーリングは願いを叶えるおまじないだ。年が明けてすぐに恭弥が受け取った指輪には、また一年一緒にいられますようにと願いが込められていた。
指輪のおかげか、またはディーノの努力があってこそなのか、二人の一年は幸せだった。日本とイタリアという遠距離は、付き合い出して数年の二人には障害にならなかった。
離れていても連絡を交わし、度々ディーノは日本にやってくる。月に一回も会えない時もあったが恭弥は不満を感じていなかった。それは仕方がないことだからだ。ディーノはマフィアのボスでその本部はイタリアにあり、日本には仕事でない限り長くは滞在出来ない。しかし恭弥も同じ様にマフィアだ。
ファミリーは違えど、本部は同じ様にイタリアにある。いつかはイタリアに移ることを考えているからこそ、離れていられるのだ。例え今は一緒にいることが出来なくても、いずれ時が来れば一緒にいることが出来る。

高校を卒業してしばらくの間、恭弥は日本を離れることが出来なかった。それには訳があった。
言語という問題もあったが、恭弥はディーノと付き合い始めてからすこしずつ勉強していたため、今では日常会話であれば問題はない。問題は十代目守護者全員が行ける状況ではなかったということだ。
全員が可能な状況になるまで恭弥は風紀委員会の引き継ぎをしていた。長年取り締まってきた並盛を突然放置することは出来ず、恭弥は風紀財団を作った。恭弥が日本にいない間は、これまで風紀委員として働いてきた者達に任せることにする。その引き継ぎの作業や新しい様々なことに追われている内に、季節は夏へと差し掛かっていた。

ディーノはこの所恭弥にしきりに連絡をよこしていた。それは高校を卒業したら来ると言っていた恭弥が、いつになってもなかなかイタリアへとやって来ないからだ。出来るならば恭弥だけでも早く来て欲しいのに。
そうディーノが思ってもそれは叶わない。急かしたい気持ちでいっぱいだったが、ディーノはそれが出来なかった。何故ならディーノは恭弥と同じマフィアであり、同盟を組んでいるが同じファミリーではないからだ。ファミリーはにはファミリーの順序がある。守護者全員揃って、それにこだわるボンゴレに対し一人だけ先になんて言えるはずがなかった。
それでも会いたい気持ちは変わらなくて、ディーノは毎日毎日恭弥のことばかり考えた。早く逢いたい、フライトの時間に左右されずに逢いに行きたいと。

季節が秋に変わり、キャバッローネの敷地内の植物も紅く変わり始める季節。恭弥は今日もいない。昼食後の食休め、エスプレッソを片手にディーノはボンゴレからの書類片手にそんなことを思った。
ボンゴレからの書類を気にしてばかりいても、何時になっても十代目守護者お披露目の知らせは来ない。お披露目など無くても守護者には面識のあるディーノだったが、それが来ないと恭弥も来ないのだ。

(いっそ、攫いに行くか)

いつもの様に逢いに行って、いつもの様に過ごして眠った所で飛行機に乗せてしまえば簡単なことだ。しかしそれは恭弥の意思を無視することになる。そんなことで嫌われたくもなく、ディーノは実行に踏み切ることが出来ない。

「はぁ」

最近ため息が増えた。一番は恭弥になかなか逢えないことだ。二番目は予定が思い通りに進まないことだ。今頃屋敷の中に恭弥専用の部屋でも出来ていても可笑しくはないのに、恭弥がやめてって言うまで構って甘やかすつもりだったのに。

「ボス、お客さんだぜ」
「あぁ、うん」

ロマーリオの声にディーノは席を立ち上がる。また一つため息が出た。仕事が嫌な訳ではない。ただ最近は酷く憂鬱なのだ。

「僕が来たっていうのに、ため息なんて酷いね」
「は、」

聞き慣れた声、それでも久しぶりに聞く声にディーノは項垂れていた首を上げた。すればパンツスーツ姿の恭弥がそこには立っていて、視線を合わせれば少し呆れた様子をしていた。
あれ、と思ってでた短い言葉に続くものが出てこない。幻なんじゃないだろうか、自分が都合のいい様に見せている幻なんじゃないか、そんな言葉がディーノの頭を駆け巡る。

「どうしたの?」

恭弥は少し首を傾げて言うが、それでもディーノには確証が持てなかった。触れるまでは現実とは思えない。近づいて緩く伸ばした手で頬に触れた。温かく、見た目よりも柔らかいそれは恭弥のもので間違いない。力をいれて摘めば合わす視線の上の眉間に皺がよる。

「やめて」
「本物?」
「…当たり前でしょ」

ふっ、笑ってから恭弥は言った。会っていきなり頬を摘ままれたことに機嫌を損ねたが、その理由を知ってそんなのどうでも良くなったのだ。恭弥にとってディーノがこんなに弱っているのは、予想外のことだった。
きっとディーノのことだからこれまでの様に気にせず、会いたい時は会いに行くからとばかり思っていると思っていたのだ。しかし実際はそんなことは無くて、ディーノは憂鬱そうにため息を漏らしていた。
キャバッローネを訪れてすぐ、ロマーリオにここまで案内される間にディーノのことを聞いたが、全部大げさに言っただけだと思っていた。ディーノが弱ってるなんて、そんな。そんなことは、付き合い始めてから数回しか見たことがない。
それに理由はファミリーに何かあった時や、仕事でなにかあった時だ。恭弥は自分が理由でディーノが、こんな風に弱ってしまう所を見たことがなかったのだ。

「恭弥」
「ん、」

ディーノに抱き寄せられ、恭弥はそのまま背中に手をまわした。珍しく周りにディーノの部下が何人かいることは気にならなかった。



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