かわたれ時、誰時星

朝早く目が覚める時、すっきりと目が覚めた時はそのまま外にでて空を見上げるのが好きだった。

まだ明るくない薄く明るくなり始めた暗いとも明るいとも言えないそんな時間、黄昏時の空が好きだった。


「きょうや?」

後ろから舌っ足らずな声が聞こえてその声に恭弥は振り向く。それは数歩後ろのベッドで先ほどまで寝ていたディーノの声だった。証拠にディーノの声はまだはっきりしておらず、目をこする動きからまだ相当眠い様だ。

「まだ寝ててもいいのに」

近付いてすぐ近くに立ったディーノに恭弥は言った。空の色からして時刻はまだ起きるには早い時間で、時計を確認するとまだ大分早い時間だった。恭弥は目が冴えてしまったことと、たまに見るこの空をまだ見ていたくて睡魔はどこかにいってしまっていた。
あなたは寝ててもいいよ、そう恭弥はディーノに言ったがディーノはまだ舌っ足らずの口でそれを拒んだ。

「眠いんでしょ」
「きょーやもねる?」
「僕はもうちょっと」

恭弥は戻らないと知るとディーノは起きて様と自らの頬を音が立つくらいに叩いた。パチン!と予想以上に大きい音に恭弥は目をまるくした。少し赤くなったディーノの頬に笑ってしまう。

「目は覚めた?」
「いんや」

ディーノは痛みと眠気のせいか目を少し潤ませていた。きっと本人も思っていた以上に痛かったのだ。そして襲ってくる睡魔。恭弥が起きているなら起きていたいのに眠くてしょうがなかった。

「なにしてんの」

うー、と眠そうにするディーノは後ろから抱きしめるように恭弥にもたれかかる。恭弥の頭はディーノにとって丁度いい位置だった。ディーノは恭弥が戻ろうとしない理由も外を見つめている理由も分からなかった。

「この時間の空が好きなんだよ」
「俺は朝がきたーって感じがする…」
「それって徹夜した時でしょ?」

ディーノは仕事で徹夜することが少なくはなかった。最近は恭弥に会うため会いに行くためで予定を詰めることも多く、急な徹夜も多かった。現に昨日も詰めに詰め仕事を終わらしてそのまま日本にやってきた。
今こんなのにも睡魔に勝てそうにないのは寝不足のせいなのかもしれない。けれどディーノがこうして仕事を詰めるのは自分のためであって恭弥が理由ではあるが、恭弥のせいではなかった。だからそれを口にするつもりはない。
けれども恭弥はディーノが無理をするのは自分のせいだと知っていた。でもそうゆう言い方をされるのは嫌いと分かっている。

「お仕事お疲れ様」

いつだって恭弥に言えることはこれしかない。これ以上どう言えばディーノが気にしないでくれるか分からなかったのだ。

「でもこの透き通る感じは俺も好きかも」
「僕はこの時間の星が好きだよ」
「星?」
「誰時星って言うんだよ」

明け方の空に見える一つの星。それこそが恭弥の目的だった。



(なんとなく、あなたっぽいよね)


か(彼)はたれ(誰)時:だれかれはっきり見分けられない頃
誰時星:金星

薄暗い闇の中に輝く星の様な存在ということが言いたかったのです

(2011.05.23)



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