ひどくやさしい恋のはじまり *♀
あの人は酷い人なのかと思っていた。
突然現れ勝手に家庭教師になって、自信過剰だった僕のプライドもなにもかもポキポキと折って僕を強くさせようとした。
僕は女であることを公言してはいなかったものの、女である自覚を忘れたことはない。だから戦ってすぐに気が付かれると思っていた。女であることが。
それなのにいつまで経ってもあの人は気が付かなくて、いつの間にかリング戦というのに巻き込まれていた。並盛を離れて修行しても気が付かれることはなかった。
だから僕は思ったのだ。この人はそんなことを気にする人ではなくて、女とか女じゃないとか気にしない人なんだって。
ますます酷い人だと思った。
群れが嫌いな僕がよく知りもしない、知り合って数日しか経ってない人間と過ごすのは苦痛に近かった。弱音なんて言いたくないし、そんな弱みは見せたくない。
だけどそれを続けるのは苦しくて、辛くて。リング戦の後も度々訪ねてくるあの人には本当にうんざりしていた。
でも、リング戦以降のあの人は少し優しくなった気がする。
短期間で強くなることを求められていないせいか、偽りではないあの人の本当の優しさが見えた気がした。
たまにあの人は僕を酷く優しい目で見つめる事がある。そんな視線のせいで、僕の心は日に日におかしくなっていった。
今まで持ったことのない興味を持つ様になって、視線は何かを探すように動くことがある。
なぜかあの人には女って認識して欲しくて、わざとあの人の前で着替えをした。そしたらあの人は馬鹿みたいに焦って、部屋を飛び出していった。
気が付いてなかったんだ、
その時僕は少し笑っていたのかもしれない。心のどこかで嬉しいと感じていたのかも。
だから僕はその時この先に何が起こるかなんて、何一つ考えていなかったのだ。
すぐに忘れてしまったのだ。
あの人は優しいけど酷い人だということを。
優しさをくれたのはあなた、でもその優しさは胸に鋭い痛みをもたらす。
僕は知らない。こんな痛みは知らない。
こんな痛みを与えるなんて、あなたは本当に酷い人だ。
ひどくやさしい
恋のはじまり
(2011.03.13)
title by joy
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