花粉症


ずび、ずびずび

日本に来てからまず目が痒くなった。次に鼻がむずむずして、鼻水が止まらなくなった。
気が付けば鼻水は止まらないのに鼻がつまってて、目からは涙がぼろぼろこぼれ落ちた。

「それ花粉症だよ」

ずびずびしながら恭弥に連絡をしたら、調子悪いなら行ってあげるよと恭弥がホテルに来てくれることになった。
さすが恭弥、冷たい態度ばかり取る癖に優しい時は優しい恋人だ。

「花粉症…?」

部屋に来るなり恭弥にじっと見つめられ、これは再会を喜ぶ恭弥が俺に見惚れているに違いない! と信じて疑わずにいれば、日本で聞きなれた言葉を掛けられた。
でも俺はその症状に詳しくなくいから、恭弥の言葉を繰り返す。

「そうだよ。目が痒くて涙が止まらなくて鼻水も出るんでしょ?」
「おう」
「それが花粉症。まぁ時期も時期だからね、花粉症は馬鹿でもなるみたいだよ」

そう言うと恭弥は少し口角を吊り上げた。やっぱり笑うと可愛かった。
今言われたことは確かに悪口なのに、そんなことは恭弥の笑顔に比べればどうでもよかった。道端の石ころ並に。
だから嬉しくて俺も笑ったらふへ、というなんとも格好悪い声が出て鼻水が垂れた。本当に俺は格好悪い。

「手が掛かるね」

それでも恭弥は嫌な顔をする癖にティッシュをとって、俺の鼻を拭いてくれる。やっぱり優しい恋人だ。

「きょーやありがと」

鼻を拭いてもらったまま言えば、子供みたいだと馬鹿にされた。でも恭弥が笑う顔はやっぱり可愛かったから、今日ぐらいは俺を馬鹿にするのも許すことにする。

「恭弥、」
「なに?」
「すっげぇ好き」

そう言って目の前の恭弥の首元に腕を絡めて引っ張った。可愛いし優しいから抱き締めてあげたのだ。

いや、抱き締めるつもりだった。

「ちょっと! 汚いから寄らないで」

どんっと胸を突かれ、突き放された。

全部、全部嘘。
今日思ったことは全部撤回する。

やっぱり恭弥は可愛くもない素直でもないし優しくもない恋人だった。

俺の幸せ返せ!


「恭弥のばーか!」

汚いと言われたことに腹を立て言ってやったら、何故か床とこんにちはしていた。頬が痛い。
埃のせいかますます目も鼻も痒くなった。

散々な日だ。花粉症になった上に暴力を受けた。治ったらお仕置きしてやると心に決めた。
想像したら楽しみになって、顔が緩んだらしく気持ち悪いと踏まれた。
俺は踏まれるのは好きじゃない。むしろ踏みたい方だ。

だから妄想してやった。やだやめて、と言ってくる恭弥を考えたら胸がどきどきしてしょうがなかった。
泣いてる恭弥はきっといつもの何倍も可愛い。やっぱ全部嘘。

俺は恭弥が可愛いくて仕方ないし、大好きだ。


花粉症
(にやにやしないでよ気持ち悪い! ディーノ気持ち悪い!)
(本当に傷付くんだから連呼するなよ! お仕置きするぞ!)
(…え、)

一瞬怯えた顔をした恭弥にまた鼓動が早くなった。また今日も恭弥を好きになった。

(2011.03.06)


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