代生を頼みます

もしもの話。

もしも僕が男ではなくて、女に生まれていたとしたら今とは違う生き方をしていたかもしれない。強さを求める僕にとって、女の身体はきっと不便で仕方ないだろう。
小学生であるうちは男女に大した違いはなくて、強いて言うなら性別が違うという認識しかない。思春期にさしかかり性行為での役割の違い、リスクの差に違いは存在するが、僕はそこで悩むことはないだろう。
僕も他の誰とも変わらない人間ではあるが、僕にはそれをする理由がない。出来れば誰にも頼らずに生きていきたいし、それが出来るようになったら一人で生きていくと思う。親密な接触はなくても、僕には風紀委員がある。
草壁の様な役員との事務的な会話は交わすから、他人との接触を拒否している訳じゃない。世界からの孤立を望む訳ではないから、特別変わったことをしているとは思っていない。
僕を違うもの、特殊な人間として扱う人は多いけれど、それは相手が勝手に思っていることだ。だから僕には関係がない。
僕はとにかく強くなりたかった。強さを求めるのは、そこにしか楽しさを感じることが出来ないからである。僕にとって学校に通うことは酷く退屈で、そしてつまらない。ただ授業を受けることに価値を感じられない。
勉強なんて他人に教わらなくても、自分でやればいい。わざわざ時間を掛けて、他人に教わり、定期テストを受ける必要性は僕にない。それなのに中学は義務教育だ。
僕が並盛中学校に籍を置いているのはそのためで、それ以上でもそれ以下でもない。そんなつまらない、学校生活を楽しませてくれるのが風紀委員だ。

今の生活に不安はない。それなのに僕はこのもしもを考えてしまった。

もしも僕は男ではなく、女だったら。
女だった場合の僕に利点なんか何一つない、男に生まれてよかった。ずっとそう思ってきたのに、僕は最近ではこのもしもの世界ばかりを考える。それもこれもディーノのせいだ。
ディーノは僕に対する好意を隠そうとはしない。言われなくてもディーノが僕を特別扱いしているのは分かっていたし、他の草食動物と僕とでは扱いが違うのが分かっていた。
ディーノは優しい、それは誰もが共通で持つ認識だと思う。けれど草食動物の言う優しいと、僕の思う優しいは違うものだ。ディーノの僕に対する優しさは、単なる甘やかしでもある。
ディーノは僕を我が儘だと言うけれど、絶対にその一言で終わらせたりはしない。僕は他人との会話が出来ないんじゃなくて、しないだけなのに馬鹿みたいに話掛けてくる。馬鹿みたいに話掛けてくるから僕も反応してしまう。
ディーノが諦めないから、僕は気まぐれに答えてしまう。

いつから好きになったとか、なにかきっかけがあったのか。
聞かれてもその質問に答えることは出来ない。だって僕にとってきっかけと言ったらディーノが応接室に突然現れた日しかなくて、あとは今までの日常にプラスでディーノが居ただけだ。
でもその日に一目惚れでもしたのか、と問われればそれは間違いなく違う。あり得ない。僕は誰かを一目で好きになったりしないし、ディーノが世間一般的に格好良いと言われるのは分かるけど、分からない。
好みかと言われれば今は好きな方に入る。じゃあディーノと同じ傾向の人間にもそう思うのか、それは違う。興味がない。他人の見た目なんて僕にはどうでもいい。その人間の社会的評価は僕に関係ない。
見た目が良かろうが悪かろうが、風紀に反していれば僕はそれを正すだけ。女という性別に一瞬の抵抗は持つけれど、結局はどうでもいい。
僕は他人には無関心なのだ。それでもディーノのこととなるとそうは言っていられない。僕はきっとディーノの好意に飲まれて、流されてしまったのだ。知らないうちに恋愛の道を歩いていた。
でもそれはちょっと道を外れた茨の道。進んでは行けない道だけれど、僕は誰かの指示には従わない。自分の意志で好きに進む。だからどんどん好きになってしまった。

”女だったらよかったのに”

そう思ってしまうくらいに。


酒に酔ったディーノに夢と言って、手を出させたのは僕だ。
翌朝ディーノはいつも余裕な表情ばかり浮かべる顔を引きつらせ、嫌な汗をかいて状況の把握をしようとしていた。僕は未成年で、酒に酔うことは出来ない。ディーノが僕に薬を盛ることも、無理矢理強いるなんてことがないのを僕は知っている。
冷静に考えれば自分は悪くないと分かりそうなのに、ディーノは顔色を悪くしていた。だから「さむい」なんて言って、布団に潜って、すり寄った。もう少しだけ、まどろみに溺れていたい。


でももしも、女の僕がこの世に存在しているのだとしたら。
僕の代わりに生きて欲しい。

それならば命を投げ出すことも惜しまない。


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代生=造語、代わりに生きる


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