いちごタルト崩壊 

「……」

恭弥は目の前の状況に言葉を失った。それはディーノの持ってきた手みやげで、一般的にはケーキと呼ばれるものである。ただ、恭弥の目の前にあるそれにとっては、過去形でしかない。
それはどうみてもケーキだったものだ。

「何回転んだの」

言葉を失った恭弥から出た言葉は、ケーキだったものに対するものではなく、ディーノに対するものだった。
ディーノのことだからきっと転んだのだろう。それが分かっていての発言だった。恭弥の隣に座るディーノは、小さな声で「三回」と答えた。
三回、恭弥は心の中で繰り返した。そして一つの小さなため息を漏らした。

「ごめん…」
「見た目は残念だけど、味は変わらないでしょ」

あまりにも目に見えて落ち込んでいるため、恭弥はディーノを責める気にはなれなかった。そもそもこれは恭弥が買ってきてと頼んだものではなく、ディーノが買ってきたものだ。好意を責め立てる気にはなれない。
そしてディーノは自覚をしていないけれど、ディーノが持ってくるとなればこうなっているのは予想が出来た。箱を開ける前から、中が無事ではないことは分かっていたのだ。
ただ持ってきたと言うにしては、角の潰れた箱。それも上の持ち手に近い角が潰れている。その時点で上下が逆さになったことは予想できた。

「うん、美味しい」

一応用意した皿へは移さず、箱からそのままにフォークで一塊を口に運んで言った。やっぱり見た目と味は関係ない。見た目は悪くなってしまったけど、それは美味しいいちごのケーキだった。

「ところでこれ、何を買ったの?」
「いちごのタルト」

そう言われてみれば、タルトの土台の様なものがあることに気が付いた。

「ほら、あなたも食べなよ。美味しいから」

恭弥がフォークを向けると、ディーノも形を失ったタルトを口にした。それは甘酸っぱいいちごと、カスタードクリームのタルトの味だった。


いちごタルト崩壊

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