ディアボロミントの涙

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。その言葉の通り、僕らの恋は早々と終わりを向かえた。

それでも三年続いた付き合いだ。僕にすれば長持ちしたと思う。人と接することを嫌い、人を好きになることを知らなかった僕が、初めての恋に恋に落ちたのだ。
一年以上一緒にいられたのだから、むしろ上出来だと思う。ただ何と比べてそうなのか、と尋ねられたらなんとも言えない。僕が勝手に良い終わりだったと思いたいだけなのかもしれない。

別れはなんてことなかった。強いて言えばお互いに熱が冷めて、このまま元に戻ろうかという話が出ただけ。なにか特別な空気になったわけでもなく、特別な日でもなかった。
付き合い始めた頃に比べたら会話が減って、一緒にいる時間が増えて、そして段々と熱が冷めた。ただそれだけの事だった。

「じゃあな」
「うん」

またね、とは言わなかった。それは個人的に会う必要がなくなったから。それに今度会う時は「久しぶり」になるのだろうから。
さよならも言わなかった。それはディーノが言わなかったからというのもあるけど、なんとなくふさわしくない気がしたからでもある。ディーノとは恋人をやめても、先生と生徒の関係をやめるわけじゃない。
それにどんなに会いたくなくたって、マフィアを辞めない限り会わないなんて無理だ。だからさよならを言うのは不自然に思えた。だから僕はただ頷いた。

「帰らないの?」
「ん、帰るよ」

ディーノは応接室から出て行く気配がない。不思議に思って訪ねたのに、足が動くことはなかった。向かいに立っているのにディーノは俯いていて、視線を合わすことがない。
だけど僕にはかける言葉が見つからなかった。恋人ではなくなった僕には、こんな時にかける言葉が見つからない。
だからこんなにも思考が働くのかもしれない。ディーノがじゃあ、と言うまでの言葉がほとんど頭に残っていなかった。何を言われたのかも、何を返したのかも覚えてない。覚えているのは関係の終わりだけ。
なんで今なのかも、どうしてなのかも分からない。聞いてないのかもしれないし、ディーノの言葉を聞いていなかったのかもしれない。
今更考えた所で全てが遅かった。

「っ、」

向かいから鼻をすする音がして、いつの間にか下げていた視線をあげた。

「どうして泣くの?」

分からないから聞いた。今の僕に言える言葉は、これしか残ってない気がしていた。

「ごめん、な」

(どうして、分からないよ)

言葉に出来ない声が宙を舞う。俯いてぽたぽたと床に染みを作っていう人に、音にならないそれは届かなかった。
僕はなんでさっきまでの話を全然聞いてなかったんだろうか。本当はとても大切な話をしていたんじゃないんだろうか。

なんで帰らないの?
どうして泣くの?
何に対してのごめんなの?

馬鹿みたいに子供っぽい疑問が脳内に溢れている。

だからやっぱり、言葉は見つからなかった。


[ 5/7 ]
[] []

(←)




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -