01:獅子座の憂鬱

大学からの帰り道、夜空に浮かぶ星の輝きで思い出す人がいる。

それは今は傍にいない恋人、謙也さんのことやった。自分は東京の大学に進むから、そう言って遠距離恋愛というものになったんは、もう一年半も前のこと。当時はそんな障害一つで関係が終わってしまうとも思っていなかったし、恋愛に障害は付きものや、なんて思春期みたいな考えを持っとった。
どちらかが大学に進めば会える回数が減るのも分かっていた。連絡が減るのも分かっていた。それでも誰かと付き合いながら俺に嘘を付くなんて器用なこと、謙也さんが出来る訳ないのは分かっていたから大丈夫やと思っとった。
離れても終わらへんし、何も変らへんと。

それが思い込みやったんとちゃうかな、って思い始めたのは最近のことや。謙也さんが大学生になったということは、今度は俺が受験生になる番で。次第に時間がズレ始め、段々連絡を取る間隔が広がっていった。
それでも謙也さんは時間があれば俺に電話やメールをしてくれたし、俺もその気使いに甘えてる部分もあった。それがしんどくなったんは受験が間近に迫ってからや。
俺も俺自身で何かに責め立てられる様に受験に苛立ちを感じ始め、試験前のピリピリした雰囲気に呑まれるようになった。そんでそん時に謙也さんに言ってしまったんや。

「俺も忙しいし、謙也さんも忙しいやろ。無理して掛けて来なくてもええですわ」

その時の電話はすごく久しぶりのものやった、ということは覚えとる。ずっと連絡して来んかったこととか、試験に対してなのか分からないくらい俺はその時苛々していたのも覚えとる。やからその苛々のままにそう言い放ってしまったんや。
俺の勝手な言い分にすごく小さな声で謙也さんはすまん、と呟いて電話を切った。それが最後の電話やった。

それから試験が終わって、無事に合格した時はメールで連絡をした。電話は出来んかった。きっと俺自身も、あんなことを言ってしまった後で謙也さんの声を聞くのが怖かったんやと思う。謙也さんは明るい文面でおめでとうと返してくれた。
その後は何回か当たり障りのないことを交わし、それ以来連絡はとっていない。

連絡を取っていない間も俺は謙也さんのことを忘れたことはなかった。いつだって謙也さんのことを考えていたし、大学に入学して新しい生活に慣れない中でも完全に忘れることはあらへんかった。
時間が経っても会えんくても好きな人には変わりなかったんや。やからあの日の電話を何度も後悔した。なんであんな言い方したんや、なんであんなこと言ってしまったんやろか。受験の苛立ちってこわ、なんて思っても全部手遅れやった。
すぐに会える距離におったなら、あれは間違いやって言えたかもしれへんが、大阪と東京じゃ距離が離れすぎてる。俺は訂正するための電話を掛ける勇気もなくて、謙也さんも電話を掛けて来なくなって。

気が付いたら今みたいになってた。
何してんやろ。思うことがあっても本人には聞けへん。会いたいと思ってもそれを伝えることも出来へん。

俺に出来ることは謙也さんのことを考えては勝手に想うことや。今日みたいに星空の夜は、星の様なあの人を思い出さずにはいられへんかった。


もう終わりなんかな、最近最後には必ずそれを思うようになった。

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