触れておしまいにしよう

やっぱりもう我慢出来ないかもしれない。そう思う様になったのは最近のことだ。

季節は夏、春になれば卒業してしまう人。一緒にいられる時間は僅かしかなくて、その僅かな時間が終わってしまったら俺はもう謙也さんと話すことは出来ないし、触れることは絶対に出来ない。
もしも謙也さんが卒業してしまった後でも会える機会はあるかもしれない。でも触れることが出来るのは今しかない。偶然会って触らして下さい、なんて言えるわけがないからだ。
実際俺が言われる側だったら、そんな後輩気持ち悪いと思うしもう会いたくないと思うに決まっている。俺は謙也さんに嫌われたくはないから、そんなこと絶対に口に出来ないのだ。

だから触りたい。後僅かな時間しかないから謙也さんに触れたかった。

どうしたらいいのか分からない感情は未だに俺の中で渦を巻いている。ただの欲は欲なだけにしつこく目的のものを欲していた。
子供の頃、どうしても欲しくても手に入らないものはいつだってそのうち、分からないうちに忘れて欲しくなくなっていた。それなのに俺のこの気持ちは何時になっても忘れることを知らず、増幅するばかりだ。

あの脚が欲しい、あの腕が欲しい、あの全部が欲しい、

謙也さんが欲しい。

この頃俺は何が欲しいのか分からなくなってきた。謙也さんという存在が欲しいのか、それとも謙也さんの気持ちを含めて欲しいのか。視線は何時だって謙也さんを探している。追いかけている。
試合となれば少しでも気に入られたくて気持ちを合わせて試合をする。ペアを組まされてしばらくのことが嘘の様に、俺は謙也さんに合わせる様に試合をした。

だから全国でのあの試合には納得がいかなかった。最後の大きな試合なのに、ペアを組むのは最後かもしれないのに。
俺のペアはギリギリで別の人間に変わり、試合では試合らしいことは何一つさせて貰えなかった。謙也さんは試合には強い奴がでるのが当たり前や、なんて格好良く言っていたが、俺はそんなものどうでもよかった。
確かに試合には勝ちたい。でもそれよりもあの時はなによりも謙也さんと試合に出たかった。

大会が終わった今、三年生が部活に来るのはあと僅かだった。高校受験に備えてもう来ない者もいる。そんな中、謙也さんはまだ部活に来ていた。聞けば夏休みが終わるまでは部活に来るらしい。
だからまだ触れることは出来るのだ。俺は何としてでも謙也さんい触れたかった。ごく自然に。

好きかも知れないと思った相手は同性、しかも毎日思うことは触れたい。今の俺は自分のことなのに気持ち悪いとしか思えなかった。こんな感情人に話せば気持ち悪いと思われるに決まっている。
部活内のラブルスと呼ばれる先輩達にきもいと何度口にしたか分からない。その"きもい"の対象に自分がなっていることが一番気持ち悪かった。
そして何よりもこの感情を謙也さんに気付かれて気持ち悪いと思われるのが嫌だった。

あの人は優しい人だからそんなこと言わないかもしれない。けどそんなのは俺の妄想の中の謙也さんであって、実際の謙也さんではない。現実の謙也さんはこんなことを思う俺を気持ち悪いと言うかも知れない。
そんなのは絶対に嫌だった。

暑い日差しが降り注ぐ中、練習中だというのに俺の頭にテニスのことは全くと言っていいほど無かった。頬を伝う汗が気持ち悪かった。視界の先で暑さのせいか、歪んだ謙也さんが見えた。

あの背に触れられたらいいのに、そう思うとぐにゃりと視界は歪んで身体に力が入らなくなった。下がる視界の先に誰かが駆け寄って来るのを見た。


少年は倒れる
(触れておしまいにしよう)
駆け寄って来たのは謙也さんで、俺はどうしようもなくその手にすがりついた。

この腕に触れたかったんですわ。


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