変わらない歪みのない笑顔

一度気が付いてしまうと、その感情は大きくなるばかりだった。いつだって俺の思考には謙也さんがいて、謙也さんのことばかりあほみたいに何度も何度も繰り返し考えていた。

言葉の数は少ない俺だったが、教室に戻れば仲の良いクラスメイト達は何人かいる。朝練を終えて教室に戻れば、彼らは今日も数人で席を囲みどこか盛り上がった様子で会話を交わしていた。
近くの席に座れば、俺の存在に気付いた一人が毎日変わらない朝の挨拶をしてくるので、俺も同じようにそれを返す。会話に耳を傾ければどうやらその中の一人に好きな子が出来たらしいという話だった。
中学生、やはり思春期まっさかりな故か、この手の話は少なからずよく話題にあがっていた。話を聞いていくと、どうやら告白するかどうするか悩んでいるらしい。
どうしたらいいのか周りが口々に意見を出していると、財前は? と突然話を振られた。

「さぁ、分からへんわ」

好きな人がいたからと言って、すぐに告白するべきかどうかなんて俺にはよく分からなかった。好きだと思ったから気持ちを伝えたとしても、上手くいくこともあればいかないこともある。
そもそも好きな相手がどんな人なのかも聞いていないのに、答えるなんて無理だった。俺は他人ほど人の恋愛に興味はないし、真剣に考えてやるほどの優しさもない。
所詮は他人、たかがクラスメイト。いつまで続くかも分からない感情に付き合ってやるつもりはなかった。

俺の口にした分からない、というのはどうでもいいから考えたくもない、そう言う考えから生まれたものだった。しかしこの場にいる連中はそんなことなど気が付いてもいなかった。
俺がそう言ったのは今までに経験がないからと思われたらしく、モテる割には経験少ないんやな、なんて言われてしまった。

はっきり言ってそう言った思いこみは迷惑極まりなかった。モテるとかモテないとか誰がどの基準で決めてるのか俺には分からなかったし、そう言った勝手な思い込みで判断されるのは嫌いな方だ。
言葉の少ない俺をクールと言う奴もいたが、俺自身自分がクールな人間だと感じたことはなかった。ただ無駄なことを話すより、必要なことを口にした方が楽だと思ったからだ。
話すことに関しては無駄が嫌いな俺は、無駄嫌いな部長と気が合うのかも知れないと思ったこともある。でもそれはありえない。何故なら部長はやたらと無駄な絶頂という言葉を繰り返すからだ。
それこそ無駄としか思えなかった。

絶頂、だなんて言葉を頻繁に繰り返す部長がモテるなんて、はっきり言ってどうかしてると思った。こんなこと絶対部活では口にできないけれど。
無駄と言えば謙也さんは会話にかなり無駄が多い。俺が喋らないせいであの人はいっつも口を動かしていた。なにもかもスピードを求めるスピード狂故か、喋る速度まで速すぎる時も多々ある。
あほみたいにくるくる表情が変わって、目が離せなくなるのだ。

分からへん、と言ってから黙ったままでいると話題はいつの間にか、好きな人はいるかいないかの話に移っていた。当然その話は俺にもやってくる訳で。

「財前好きな相手おらんの?」

聞かれて、一瞬どう答えるか考えた。いるのかもしれないし、いないのかも知れない。
謙也さんは好きよりも、欲しい、対象だ。これを好きな相手と言うのだろうか。

「どうやろな」

曖昧に答えれば、曖昧に答えるっちゅーことはいるんやな! と逆に周りは盛り上がってしまった。無駄に騒ぐ奴らのせいで、クラスの女子の視線まで俺達の方へ向いていた。
俺が好きな人いたらあかんのか、と騒ぎ立てて興奮する周りに対して俺はやたらと冷めていた。

「同い年?」
「ちゃう」

冷めていたのに聞かれてすぐに答えてしまった。あぁやらかしてもうた、と思った頃には遅くて、俺の返答に周りはさらにヒートアップしていた。他人の恋愛なんかに首突っ込んでなにが面白いんだ。そんなに。
一度答えてしまうとあれやこれやと質問をされてしまう。黙りを決め込むものの、質問はいつまでも答えない俺に遠慮無く投下される。
あまりのうざさに窓の外に視線をやると、一際目立つ色がいた。

(謙也さん、)

心の中で思わずその姿の名前を呼んでしまう。すると聞こえる筈はないのに、偶然謙也さんは視線を上に向けすぐに俺を見つけると、名前を呼んだ。いつもと変わりない笑顔で、なんだか嬉しそうに手を振りながら。


彼は笑った
(変わらない歪みのない笑顔)
その笑顔を見れれば俺は幸せなんです。


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