悦に入ってにやけた汚い苦笑の、*

ダブルスのパートナーのことが気になりだしたのは何時のことだっただろうか。気が付けば目は彼を追っていて、気が付けば感情は芽生えていた。勝手に、それも気付かないうちに、だ。
好きだというよりもそれは欲しいに似た感情だった。恋人になって欲しいよりも、手に入れたい、自分のものにしたかったのだ。

彼の明るさをうざいと感じたのは初めの頃だけだった。無口な俺に対してよく口が動いて、そして自身もよく動く先輩。そんな人とダブルスを組まされた意味が初めは分からなかった。だから単なる部長の嫌がらせだと思っていた。
だから試合では適当にプレーした。それなのにいつまで経ってもダブルのペアは変わらず、俺のプレーはやる気がないだけだった。それなのに試合に負ければ必ず謝ってくるその人を、俺はいつしかお人好しな人なのだと思う様になった。

ダブルスを組み始めてしばらくが経ち、相変わらず結果はでていなかったが、ペアはそれでも解消されることはなかった。もう少し仲良うしたらええんちゃう? という部長の提案から、俺は先輩のことを謙也さんと呼ぶようになった。
呼び方なんて変えたって仲良くなるとは思えなかったが、呼ばないといつまでも呼べとしつこく言われそうで仕方なく呼ぶことにした。謙也さん、そう呼ぶ様になって少しだけ距離が縮まった様な気もした。

試合になるとあまり動かない俺に対して、謙也さんは自慢の足を使って右へ左へと動いていた。全く走る気のない俺は端にそれたボールは全て謙也さんにまかせ、シングルスの時から変わらないプレイスタイルを変えなかった。
それでも謙也さんはあまり文句を言わなかった。取れそうなボールを取りに行かないと少し言われることもあったが、謙也さんは本気で怒ることをしない人だと知っていたから、適当に返事を返していた。
気持ちも込めずにとりあえず、すんません、と返しておけば十分だと思った。
たまにしつこいなと感じた時は試合後や部活後に、わざと落ち込んだ態度を取ってみたりしたこともある。そうすると謙也さんは馬鹿みたいに俺に甘くなった。

もしかしたらこの感情のきっかけはそんな所だったのかも知れない。
誰にでも優しい謙也さんが、俺が落ち込んだフリをすると優しさなのか、やたらと俺を甘やかすのだ。好物のぜんざいを奢ってくれることもある。
俺は自分が食べている時そんなに感情を押し出してるつもりはなかったが、どうやら相当嬉しそうに食べるらしい。一度、連れて行ってくれたお店のぜんざいが本当に美味しくてこれは顔に出てるかも、なんて思っていたらすぐ後に謙也さんに言われてしまったことがあった。
おいしいん? ってあまりにもしつこく聞いてくるから、頷けばそうゆう顔もできるんやって言われてしまった。
食べているのは俺なのに、何故か嬉しそうに笑う謙也さんに俺は恥ずかしくなって視線を反らした。あの時はただ人に見られるのが慣れてないだけだと思っていた。けど、違ってた。

俺は謙也さんの笑顔が直視できなかったのだ。嬉しそうに俺を見つめるその目に、吸い込まれそうだった。同時に欲しいと感じ始めていた。

試合中コートを走り回る脚に目を引かれる。よく走るせいか無駄な肉の付いていない脚はすっきりとしている。少し盛り上がったふくらはぎは柔らかそうで触わりたくなる感情を抑えるのはいつのまにか常となった。
横に並ぶと俺よりも10cmも高い謙也さん。俺よりも高い視線でどんな世界を見ているのか酷く気になった。どのくらい俺はそこに映っているのだろうか。
俺はどう見えているのだろうか。

いつの間にか俺は謙也さんの全部が欲しくなってた。全部、せんぶ、ゼンブ。

どこか俺だけしか知らない場所で俺だけを欲しがればいいと思った。俺以外を映す視線は、視界は、目玉なんていらない。どこかに行ってしまう脚なんていらない。俺が全部世話をしてあげるから他人に触れる手なんていらない。
声は俺の名前だけを呼べばいい。だから必要のない脚も手も全部もぎ取って、ただ俺の傍に居てくれればいい。





なんて思ったけどやっぱりそんなの謙也さんやないし、俺は謙也さんの脚も手も全部大好きやからそのままの謙也さんが一番ええと思った。


少年は笑う
(悦に入ったにやけた汚い苦笑の、)
いつか俺のもんになったらええんに。


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