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バァン!!!!
大きな音と共に倒れた自室のドアを視線の端に見つけ、ディーノは愛人と甘い時間を過ごそうとしていたベットを飛び出した。
幸いに事は何一つ始まっていない。全てがこれからの状態だったディーノはどこにも向けようのない少しの怒りを持ってドアのあった入口へ向かった。
ヒュン
「いでっ」
突然飛んできた何かに顔面を狙われたディーノはその反動で尻餅をついた。ガランと金属音を立てて転がったその何かにもしかして、と思い視線を向けた。
投げられた何かがあたり痛む鼻を押さえて見つめたその先には、
――トンファが見えた。
やっぱりと思ったそれはまぎれもなく恭弥のものだった。小さな足音がゆっくり近づいてきて持ち主が床に転がったそれを拾う。
「じゃあ、説明してもらおうか?」
恭弥は拾ったトンファをくるっと回転させ始める。
ディーノが何が、と言葉を続ける前に恭弥は部屋の奥へと視線を向ける。冷めた恭弥の視線はベットに腰掛けている愛人を見つめていた。
にこり、目が合うと美しく笑う。恭弥は何も反応を示さなかった。
「きょ、きょーやっ」
恭弥がディーノには愛人がいたことを知っていた、とは知らないディーノは必死に頭を回転させる。何か言い訳を考えなくては。
仕事の相手とごまかすか? いや、それだと今の状況は可笑しいだろう。仕事の相手が何故俺の寝室にいる? ・・・それもベットに。
可笑しいだろう。恭弥がそこを疑わないはずがない。
あぁ、そうだ。急に倒れてここに運んだということにしとこうか。
「違うんだぞ恭弥!」
ディーノは尻餅を付いた床から立ち上がり恭弥の前で否定の意味を込めて手を横にふる。ディーノは愛人のいるベットへとかけよりその手を取った。
「仕事で来て倒れたんだよ。もう大丈夫か?」
ディーノは愛人へと目配せをする。その意味を理解した彼女はディーノに合わせるように、ええ、と柔らかく微笑んだ。
そして続けて、では今日はこれで失礼しますね、と告げてベットから降り立ちディーノに軽く挨拶をして部屋を出て行こうとする。
「もう来なくていいよ」
横を通り過ぎる彼女に恭弥はそう呟いた。ディーノには聞こえないように。彼女にしか聞こえないように。
一瞬動きを止めた彼女だが、どうゆう状況かすぐに理解したようで「あぁそうゆうこと」と返し柔らかい笑みを崩した。
ドアのなくなった入り口から彼女は去っていった。心なしか廊下から聞こえるヒールの音は微かな苛立ちを込めていた。
「仕事の相手が女ってこともあるんだぜ」
別に愛人とかじゃないから気にすんなよ。俺にはお前だけだ、恭弥・・・
ディーノはそう告げて恭弥に近寄ってくる。真っ直ぐと前を見つめる恭弥の顎を掴み上を向かせる。恭弥の唇に自分のそれを重ねるように顔が近づいてきた。
「死になよ」
ゴッ
重なるよりも先に恭弥の右腕が動いた。それまできつく結ばれていた口を開かせディーノの顔を容赦なくトンファで殴ったのだ。
またしてもディーノは予測できなかった事に反応が遅れそのまま直撃を受ける。反動でまた飛ばされた。また尻餅をついた。
「何すんだよ恭弥!」
いてて、と殴られた頬をさする。近距離だったせいかその痛みは結構酷く、鼻がツンと痛くなった。
鼻に手を伸ばすと生暖かいものが指に付いた。それは赤い鮮血だった。
「あなたって格好悪いね」
ゲシッ
恭弥は床に座るディーノを蹴り上げた。今度はそれ程強くはない。
「な、何だよ急に・・・」
「愛人、でしょ。さっきの」
愛人。
そのキーワードにディーノの脳がフリーズを起こす。恭弥の目は嘘を吐いてるとは言えない程に真剣なもので、すぐに違うとは返せなかった。
「僕はさ、ずっと知ってたよ。いたこと。あなた思いの優しい部下が教えてくれたよ」
「・・・・・・」
ディーノは俯く。黙っていては肯定しているようだけど、彼女は愛人には変わりなかった。いたのは事実。
返す言葉が見つからない。
「今日もね、あなたの部下は僕の事を帰そうと努力してたよ。全員咬み殺させて貰ったけど。そうそう、一人はね
"ボスの愛人との大事な時間なんです。邪魔しないで下さい"
って頭を下げたよ。よかったね、あなたには優しいあなた思いの部下がいて。そしてあんな綺麗な人がいて」
さっき初めて見たディーノの愛人はとても綺麗な人だった。予想していた様に僕とは対象的でとても綺麗な人。
笑うその顔は凄く綺麗だった。あなたが好きになっても可笑しくない人、誰でも心惹かれそうな人だった。
「あなたはさ、ずっと知らなかったでしょ」
恭弥の一撃がまたディーノの顔面を捕らえる。
「僕はずっとあなたが好きだったんだ」
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