本当に何も知らないあなた


俺には恭弥の他に愛人がいる。きっと恭弥はその事に気がついてないし、これからも気がつくことはないだろう。

あいつは世界中を飛び回っているし、気紛れにしか自分からは会いに来ない。
俺は恭弥に会うのも愛人に会うのも仕事の合間を縫ってでしか出来ない。だからきっと恭弥と遭遇することもないはずだ。

恭弥、俺はお前が本気で好きだ。愛してる。

でもマフィアの世界にずっといる俺の経験から言えば、愛人なんていてもおかしくないんだ。
あのリボーンですらいただろう?

だからどうかこの事を知っても傷つかないで欲しい。いや、ずっと気づかないで欲しい。
恭弥は実は弱い子だから、俺がいないときっと生きていけないだろうから。

だからお前は何も知らないままでいて欲しい。俺だけを見てろ。俺だけの事を考えていればいい。





「ボス、いつ恭弥に言うつもりだ?」

愛人との久しぶり休日を過ごし本邸に戻ると、今までずっと黙って職務を遂行していたロマーリオが口を開く。ロマーリオの発言にディーノは上着を脱ぎながら首をかしげた。

「? 何がだ?」

ディーノがそう答えるとロマーリオはその渋い顔の眉間に渋い皺を寄せた。
自室のドアを開けてディーノは中へ入る。長いソファの背もたれに上着を置き、その横にディーノは腰を落ち着かせた。

「・・・愛人のことだ」

 ぴくり、

ネクタイをほどこうとしていたディーノの指が少しだけの反応を示し、動きを固める。ワックスで固めていた頭をわしゃわしゃと簡単に崩しディーノはロマーリオに視線を向けた。

「言うつもりは・・・、ねぇよ」
「・・・・・・」
「恭弥に愛人の事を言うつもりはねぇよ。ジャポーネには愛人がいるからどーこーとか、そーゆー感情は受け入れられないからな」

この世界じゃ愛人がいない方が不思議なのにな、と続けてディーノは声を漏らして笑った。
その反応にロマーリオは渋くなっていた顔にさらに皺を寄せた。

「ボス・・・」
「あぁ、あれだ。別に恭弥が大事じゃねぇって訳じゃねーよ? ただなぁ、あれだよ。会えない時間の何か変わりがいるんだよ」
「恭弥それを言ってみたらどーだ? ボスが思ってるより恭弥はボスのこと好きだぜ」


この時、俺はロマーリオの言うことに確かに、とも思った。

あれだけ人と群れるのが嫌いだった恭弥の心を開いて、まだ触れたことのない感情を目覚めさせたのも俺だ。
俺が愛したようにきっと恭弥も俺の事が好きなんだろう。好きでいて欲しい。


でも、


本気で好きな相手だからこそ、知られたくないことがある。


俺は恭弥が思ってるほど強い訳じゃない。お前に会いたい。でも会えない。
俺はお前の事が心配でしょうがない。仕事で無理をしていないだろうか、怪我はしてないだろうか、俺に会えなくて寂しくはないだろうか、一人で辛い思いをしてないだろうか。
俺はお前の事しか考えられないほどにお前が好きだ。会いたい。出来ることならいつでもそばにいたい。そばにいて欲しい。


でも俺とお前は普通じゃないから、普通の恋愛なんてできっこない。

俺はマフィアのボスで、お前は同盟ファミリーの幹部。

いつまでも一緒にはいられない。


俺はいつまでお前とこんな関係を続けるんだろうか。そのうち恭弥は俺に愛想をつかすかもしれないな。
そしたら終わりにしよう、この関係を。

愛人なんてただの暇つぶしだ。気を紛らわせるための玩具でしかない。お前にこの気持ちを理解して欲しいとは思わない。
悪いとは思った。後悔をした事が無い訳ではない。


「ロマーリオ、」

ディーノはそばに立つ部下の名前を呼ぶ。

「なんだ、ボス」
「俺はさ、恭弥にバレたらちゃんとけじめをつけるつもりだぜ。愛人とも手を切る」
「そうか、」



その時のロマーリオの一言が少し哀しいものに聞こえたのはきっと気のせいじゃないんだろうな。






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