風花

急に気温が下がったと感じて、いつもより厚着をして布団に入ったのは昨日

朝は足元に肌寒さを感じて目が覚めた。身体が十分に入るサイズの羽毛布団であるはずなのに、隙間から冷気が入り込んだために足先は冷たくなっている。毛布と掛け布団を手繰り寄せて上半身を起こした。

窓はさほど明るさを取り込んでいなくて、今の時刻がさほど早くないと分かる。時計を確かめてみると時刻は朝の四時過ぎ。まだ静かな時間帯だった。
そのままもう一眠りしてもよかったが、寒さ故か目が覚めてしまってそのまま起きることにした。ベッドから抜け出して室内用スリッパを履き、近くに置いておいた上着を羽織る。窓の向かいにある窓に近づいてカーテンを開けた。
レースのカーテンを捲るとちらちらと空から降り落ちるものが目に入った。それはこの寒さの原因であるだろう雪だった。

もう雪の降る季節になったのか、そう思いながら今日の日付を考えてみた。例年に比べてそれは早く、寒くなったのもここ二、三日の間だった。
一年の内でこの時期にしか降らない雪。好きでは無いが嫌いでもなかった。見ている分には綺麗で好きだったが、気温の低下が進むのが嫌で好きにはなれなかった。
それでも興味がそそられない訳ではなくて、寒いのを承知で少しだけ窓を開けた。手を伸ばすと降ってきた雪が掌に落ちてすぐに溶けてゆく。結晶が掌の上で溶けて消えていくのは儚くて、そしてとても綺麗だった。

「っくしゅん、」

やっぱり寒くてその寒さに耐えきれずくしゃみがでた。

「…恭弥?」

そのくしゃみで起こしてしまったのか、隣のベッドで寝ていたはずのディーノの眠そうな声が後ろから聞こえる。振り向くとディーノは閉じそうな瞼をこすっている。少しだけ布団から出た身体はやはり寒いらしく、さむっと呟いた声が聞こえた。

「恭弥さむい」

よくあんな薄着で眠れるなぁ、と思いながらディーノを見ていると言われてしまう。仕方なく窓を閉めた。そのままでいるとディーノはベッドから降立ち恭弥の元へやって来る。

「外になんかあったのか?」
「ううん、雪が降ってたから」

窓を開けたことに特に理由はなかった。ただ雪が降っていて、一年に一度、この時期にしか降らないそれに好きではないのに興味が沸いただけだ。そして窓を開けたらそれに触りたくなったから手を伸ばしたのだ。

「手つめたい」
「雪触ってたからね」

伸びてきたディーノの手は、片手だけ赤みを帯びた恭弥の左手に触れた。両手で赤くなった手を包まれる。するとじんわりとディーノの手から熱が移ってきて、恭弥の手は少しずつ色が元に戻っていく。
ディーノの手に包まれて分かる手の大きさの違い。それが妙に気になってしまった。
ディーノに比べると恭弥の手は凄く小さくて、また筋張っていなければ節々もあまりはっきりしていない。自分の手はトンファーを握ったりするためか、他の同性よりは筋張っていると思っていたのに、ディーノの手と比べると十分女の手だった。

「へっくち」

今度はディーノがくしゃみをする。それもそのはずで、ディーノは上着すら羽織らず薄着のままだった。

「寒いからベッドに戻ろうよ」

そう言って恭弥はディーノの手を引いて戻ろうとするが、引いた手はある程度引いたところで止まってしまう。振り向くとディーノは窓の方を向いていた。ディーノは戻る気がないらしく、窓に手を伸ばして少しカーテンを開けていたかと思うとシャッとそれを大きく開けた。

「ゆき!」
「だからさっき降ってるって言ったでしょ?」
「見たい!」
「…それならあなた上着持ってきなよ。風邪引くよ?」

そう言うとディーノは部屋をきょろきょろと見渡す。この部屋に何か羽織るものがないか探している様子だったが、ここにはディーノの上着は置いてない。するとんー、と悩んだ声を出す。しかしすぐに何かを思いついたのか、恭弥の名前を呼んで恭弥のベッドに腰掛けた。腕を引かれたこっちに来いと促される。

「なに?」
「恭弥こっち」

そう言われて引かれるままにディーノの足の間に座る。すると後ろからディーノの腕と布団に抱きしめられた。

「これでいいだろ?」
「…確かに暖かいけど、」

後ろから抱きしめられる形ですっぽりとディーノの腕に納まってしまう。触り心地の良い羽毛布団は頬の高さまで恭弥を包んでいた。
その中はディーノの体温のせいなのか、恭弥の顔に熱が昇っているのか、上着を羽織ったままなせいか、すごく暖かかった。でもその暖かさに悪い気はしなくてそのままディーノと二人で目の前の窓から見える雪を見ることにした。

「あったかいね」

ぽかぽかとまではいかないけれど、それは一度どこかへ行ってしまった睡魔を呼び寄せる程には丁度いい温度だった。

「眠い?」
「多分まだ平気」

まだ、というのはいずれは寝てしまうかもしれないということ。恭弥は段々と落ちていく瞼に重みを感じながらそう答えた。

「寝てもいいぜ」
「あなたは? 眠くないの」
「おぅ。なんか覚めちった」

そう答えるとディーノは笑った。その笑顔からディーノは完全に目が覚めてしまったのだと分かる。

「あぁ、駄目だ。本当眠い」
「ん、なら寝ちゃえって」
「……」

恭弥に寝ることを促すディーノに恭弥は視線を投げかけた。本当は眠いけれどあまり寝たくはないのだ。出来ることならもう少し雪を見ていたかった。

「どうかした?」

ただ視線を送るだけで、ないも言わない恭弥にディーノは問いかけた。

「…あなたと雪が見れるのに寝るなんてもったいないじゃない、」


そう言うとディーノは少し驚いた顔をして、そして嬉しそうに笑って、そうだな、と返した。

-----
風花(かざはな)
雪の散る様子を表す言葉の一つです



[ 13/13 ]

[] [→]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -