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恭弥はディーノが最終的に何を言いたいのかが分からなかった。知らないことだらけだからやっぱり生活が合わない、これからの話は全てなかったことにしようとでも言いたいのだろうか。
恭弥は良くないことを想像していたが、ディーノの言いたいことは恭弥の考えてるようなことではなく、むしろ逆のことだった。ディーノは恭弥についてあまりにも自分が知らなさすぎたことに驚いているだけなのだ。
「恭弥は俺が考えてるのと随分違ってた」
どき、
そのディーノの発言に恭弥の心臓は静かに跳ねた。身体が嫌な熱を持ち始め、少しずつ鼓動は重く早くなる。
どきん、どきん
「いやだ、って言うの…?」
最後の方は声が震えてないか心配だった。視線はディーノに向いたままなので、動揺しているのがばれてしまわないように表情になるべく考えていることがでないように我慢する。
感情を抑え付けて、早く鼓動が納まるように願った。怖くて、ディーノが言おうとしてることを聞きたくなくて不自然だと分かっていても目を閉じてしまう。
「恭弥?」
ディーノは恭弥の異変に気が付いて名前を呼んだ。呼べばなに、と返すけれどもその声は固い。ディーノはその恭弥の態度から、今自分が誤解させているということに気が付く。
「恭弥、何か勘違いしてないか?」
「な、にが」
ぱっと恭弥の膝から起き上がって恭弥に向きあう。震えない様に力を込められた手をそっと本ごと包んだ。
「俺は嫌とかそうゆうことは言ってない」
「でも貴方の考えてたのと違う、って」
恭弥は俯いたままでディーノの方へ顔を向けようとはしない。目をつぶれば耳も聞こえなくなるんじゃないかと思えるくらい恭弥はぎゅっと目を瞑る。
「俺はまさかこんなにも恭弥に対して知らないことがあるとは思ってなかったんだよ。今まで知らなかったのは残念だって思ったんだ」
「後悔してるんでしょ…?」
「だーかーらー」
後悔、恭弥のその発言にディーノは溜息を一つ付いてそう口にした。恭弥は今までの自信は何処にいってしまったんだ、というくらい急激なネガティブ思考に陥っていた。あんなにも自分からは離してやらないと言っていたのに、今は簡単に手放そうとしている。
「俺は嫌なんて言ってないだろ。むしろ嬉しいんだよ。恭弥と暮らすっていうのはもっと大変で、我慢しなきゃなんねぇ問題も多いと思ってたんだ。だけど今はすごく幸せだ」
「嫌じゃないの、」
恭弥はちらりと視線をディーノに向けた。視線が合うとディーノは優しく笑ってそのまま恭弥を引き寄せた。いて、と言いながらも恭弥の背に腕をまわす。
「俺は恭弥とこれからを過ごしたい。恭弥がいい」
「うん」
「…怪我が治ったらちゃんと言うから、それまで待ってて」
「しょうがないね、」
顔を上げた恭弥が困ったように笑うから、たまらなくなってディーノはその唇に噛みついた。
悪戯に繰り返せば痛い頬をつねられた。
大変だと思っていた恭弥との生活は嘘みたいに居心地がよくて、毎日が新鮮だった。今まで知らなかった表情、仕草、さりげない優しさ。
それが愛しくてしょうがないと思ったんだ。
もう二度と離したりしない。絶対に。
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