08.副流煙に沈む

目が覚めると見慣れない天井が目に入った。見慣れない光景に何度か瞬きを繰り返せば、段々と意識がはっきりしていく。こうなる前は何をしていただろうか。
そうだ、あの人とご飯を食べに行って、それで…


その後のことを思い出すよりも気になることがあり、恭弥は考えるの止めた。横になったまま白い天井を見つめ、気になるそれに意識を集中させる。それは学校では滅多に気にならないものだった。

煙、

一つのキーワードが恭弥の頭に浮かぶ。学校であれば教員専用の喫煙室の側を通らない限り感じることはなく、自宅で吸うものは誰もいない。
恭弥はあまり好きではないその匂いに眉間に皺を寄せた。

「くさい」

上半身を起こして言えば、視線の先のソファーにディーノの明るい頭を見つけた。恭弥の声にディーノが振り返り、起きたのかと声掛けてくる。
けれど恭弥にはそれよりも気になる、むしろ気に食わないことがあった。返事を返すよりも先にその原因を探した。すると振り向いたディーノの先にうっすらと上がる筋を見つける。
恭弥? と返事を返さないことに疑問を浮かべるディーノの後ろ、ディーノの右手にそれはいた。

恭弥は速やかにベッドを抜け出すとディーノに近付いて行く。

「恭弥?」
「……」

近付いて見るとやっぱりそれはディーノの手で、確かにそれを吸っているのはディーノだった。空いた手には数枚の書類があることから、見ながら吸っていた所なのだろう。
ソファーの向こうには小さなガラステーブル。その上に置かれた灰皿には数本の吸殻。

「なんもしてねぇよ、」

いつまでも不機嫌な様子でじっと見てくる恭弥に、疑われているのかもと思ったディーノはそう言った。しかし恭弥の気になってることにディーノが気が付くはずもなく、その予想外の言葉に恭弥は少し呆れた。

「当たり前」
「あ、どこ行くんだよ」

ディーノの問いに短く返事をして、恭弥はそのままテラスに向かった。大きな引き戸を全開に開ける。
後ろでその行動の理解が出来ないディーノは、更に疑問に思うことしか出来なかった。

女の子の考えることは理解出来ないと言うよりも、恭弥の場合恭弥の行動が予測出来ないと言う方が正しかった。何処と無く距離を置いてる様に感じるのに、今日はディーノが誘えば食事に付いて来た。
ディーノは恭弥相手、生徒相手だと言うのに食事することに緊張を覚えた。恭弥に対してディーノが緊張するのはこれが初めてではなかった。
あの日、恭弥を泊めてその寝顔を見てしまってから何回か緊張することがあった。そんなディーノだったが、向かいに座る恭弥にそんな様子は一切見られなかった。
恭弥は淡々と食事を進めていくが、その姿はとても年不相応で凄く綺麗だった。もちろん食べ溢しをしない意味もあるが、それだけじゃなく食べる姿そのものもだ。

ディーノは食べ終わるまで緊張が抜けることはなかった。やっと食事が終わり送って行く、と恭弥を車に乗せれば恭弥はすぐに眠ってしまう。それは食事中とは逆だった。お腹いっぱいになると眠くなってしまうなんて、可愛らしいとしか言いようがなかった。
普段からは予想出来ない幸せそうな顔で恭弥は寝ていた。恭弥に指定された場所に着いた時も恭弥は起きなかった。
それ所か起きたくないのか、少し嫌そうに声を上げていた。それに内心ドキドキしながらも恭弥をホテルに連れて来ることにしたのだ。ロマーリオに手を出したら犯罪、そう言われてすぐに反論したディーノだったがこれからもそれが出来るかどうかは分からなかった。
今日は、手を出さない。それしか言えないほどドキドキしていた。

仕事をしながら心臓を落ち着かせていると、恭弥は目を覚まして不思議な行動を繰り返した。今はテラスの戸を全開にさせている。

「恭弥、どうかしたか?」
「僕は煙草が嫌いだよ」

テラスの椅子に座る恭弥に問えばそんな答えが返って来た。そう言われれば今までの恭弥の行動に納得出来る。
しかし秋から冬に近付いた今の季節、夜風は涼しいよりも寒かった。恭弥は寒そうにしているが、ディーノが何を言っても中に入ろうとしなかった。

テラスの椅子で膝を抱えた恭弥は寒さよりも、ディーノのことを考えていた。



(少し、幻滅)


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