05.夜は不透明

恭弥は着替えのついでにシャワーも借りて、夕飯も食べさせてもらうことになった。そうなると自然に泊まる流れになり、それを考えていなかった様子のディーノはまた慌てた。

自分の家庭教師として現れたディーノという人物はこんな人だったか、という疑問を恭弥は抱くことになった。明らかに異性には慣れている様子だと言うのに、恭弥が中学生だからかディーノの反応の仕方は異常だった。
夕飯の時は恭弥があまり食べないことを何度も「俺、お前の家庭教師だからさ、」と最もらしい理由を付けて指摘した。

その行動にディーノ自身もらしくないと感じていた。他人の前でこんなに慌てるなんてことは滅多にない。あっても大抵はファミリーの中で、だ。

「恭弥ベッド使えよ」
「あなたはどうするの」

泊めるとなったはいいものの、元々部屋はディーノと部下の部屋しか取っていなかった。部屋を一つ部下に空けさせてもよかったが、1人部屋は自分のもの以外取っていない。部屋を増やすにもフロントにわざわざ言いに行くのも面倒で、部屋が空いてる保証もなかった。
隣の部屋で仕事をするからと告げ、恭弥を寝室に1人にさせる。仕事が終わらないかもしれないから、そう付け足してベッドを恭弥に使わせる。ディーノは恭弥がベッドに入ったことを確認してから部屋を後にした。

ディーノは寝室とは対象に、明るい隣の部屋に入ると後ろ手に扉を閉めた。改めて何をやってるんだとため息を漏らした。
仕事があるというのは嘘だった。日本に来る時はなるべくこっちで仕事をしなくて済む様にしているし、無理な仕事がないようにロマーリオが管理している。
それに仕事の時はロマーリオ含む何人かがディーノの側に付いていた。しかし今は誰もいない。
恭弥がディーノのそんな嘘に気が付くはずはないけれど。


恭弥はなかなか眠りに入ることが出来なかった。真新しい服に普段とは違う感触のベッド。それはいつも使ってる布団に比べたらふわふわしていて、なんだが落ち着かなかった。
落ち着かない理由はもちろんそれだけじゃない。隣の部屋にディーノがいることも、だ。まさか同じ部屋で寝ることになるとは、思ってもいなかった。意識したくなくてもディーノは異性で、昼間に嘘だとしても告白してきた相手。
夜になにかあるんじゃないか、これからなにかあるんじゃないか。そんな期待とは言えない(多分)不安が恭弥の中を渦巻いていた。
こんなことの経験は今までに一度もない。なんで泊まることにしてしまったんだろうか、無理やりにでも帰れたのに。服なんて明日取りにくればいい。ここは並盛のホテルだから、道が分からない訳でもなかった。
それでも今更帰るとは言い出せなくて、ふわふわのマットと掛け布団に挟まれながら睡魔が来るのを静かに待った。

恭弥がやっとうとうとし始めたころ、ディーノはやっと寝室に戻ってきた。恭弥が入ってから二時間近くが経過していた。
それとなく視線をやり、恭弥が眠りに付いてることを確認すると、ディーノはソファーに横になった。ベッドに比べたら寝心地は悪いものの、酔った頭ではすぐに眠れそうだった。
ディーノは先程の嘘を実行する術がなく、1人呑んでいたのだ。それなりに酔っているば真っ先に来るのは睡魔、間違いを犯すことはないと思ったのだ。
ディーノが横になりしばらくするとごそごそと後ろから音がする。
しばらくすると小さな足音が近づいて、すぐに離れていった。恭弥がディーノを確認しにきたのだ。ほのかに香るアルコールの匂いに少し眉間に皺を寄せ、恭弥はテラスに足を運んだ。
扉をスライドさせる音に、ディーノは恭弥が外に出たと知る。閉まる音に視線を向ければ、テラスの柵の側に立つ恭弥の後ろ姿が見えた。

恭弥は夜の並盛が好きだった。人のいない静かな時間。人と同じように眠りについた並盛の街は月明かりに照らされ、凄く綺麗だった。好きな場所をこうして眺めるのを恭弥は好きなのだ。
眠れない夜はこうやって外に出ては飽きるまで眺めている。ここに来てからずっと忙しなく動いていた鼓動は、ようやく落ち着きそうだ。

夜の街と不透明な夜空。向こう側の見えない空は、なんとなくディーノの瞳を思わせた。色も形も違うけれど、先の見えないところは同じだった。
本心の様に笑うディーノ。でもそれはどこか不自然で、そして違和感があった。
大人は嘘つきで、ズルい。恭弥はディーノにもそれを思った。いい顔をするのは相手の気分を損ねないため。そうやって相手の様子を伺いながら接してくる人が恭弥は嫌いだった。


家庭教師だと言った。

それなのにあの人は嘘つきで、酷く不透明だ。

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