15.たららんらんらん

恭弥と恋人になった。

出会った時には考えてもいなかった関係になって、俺は幸せな今に酔いしれていた。だから期限のことなんてすっかり忘れてたのだ。


「恭弥」

ディーノは恭弥のいる応接室に着くと、恋人の名前を呼んだ。呼び方も名前も以前とは何一つ変わっていないのに、名前は確かな甘さを含んでいた。
ディーノが今愛しくて堪らない人。その僅かな変化に恭弥も気が付いている。

「何しに来たの?」
「恭弥に会いに」

恭弥は今までだったら書類優先だった視線をあげ、本当は知っている理由を問う。聞けばディーノは嬉しそうに笑い、恭弥も少しつられて表情を緩ませる。
以前ディーノが学校に現れる理由は一つしかなかった。家庭教師として、それ以上でも以下でもなかった。ただ頼まれた家庭教師として来ていたのだ。
私情なんて一切関係なく、ただ先生として恭弥に接していた、

はずだった。

しかし最初に教師と生徒の関係を崩そうとしたのはディーノであり、いつだって恭弥は受け身だった。それでも今二人がこうした関係になったのは、確かに二人の間に通じる感情があるからだ。

「まだ掛かりそう?」
「…後でやる」

ソファーに腰を落ち着かせ、ディーノは恭弥に傍に来る様に促す。同じ部屋にいるのに近くにいないなんて、なんとなく寂しかったのだ。
応接室には二人しかいなくて、二人しかいないからこそ恭弥は素直に行動する。ディーノの近くに行きたいと思うから、隣に座ったのだ。

「寒い」
「んー、…入る?」

季節は秋から冬に変わっていた。ディーノのファー付きの上着は見るからに温かそうで、ディーノは片側を捲る。
恭弥が身体が密着するぐらい近づくと、恭弥の身体ごと上着の前を引き寄せた。

「あなた自身が温かいね」

上着とかそんなものは関係なく、服ごしに触れた部分が温かかった。
ディーノの隣は心地好く、恭弥も早くこうならなかったことを後悔した。そして自分がこんなにも、素直になれる相手がいたことに驚いた。

(不思議な人、)

ディーノの腕に甘えながら、恭弥はそんなことを思った。




だから、二人して期限を忘れてたんだ。

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テーマ「人外ファンタジー」
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