14.きみに浸かる *

それは極々自然な流れだった。

始めて交わした口付け、始めて触れたあの人の唇。すぐに受け入れなかったのはちょっとした恥ずかしさと、照れ臭さからだ。
キスしてもいいかと聞かれ、すぐに頷くのはまるで期待していたと思われてしまいそうでいやだった。
それでも二度目の告白を嫌だと思わなかったのは、やっぱり僕自身もあの人が好きになってたからだと思う。
だから口付けを許し、それ以上のことだって受け入れられたんだと思う。あの人はどんな時も僕に優しくて、経験のない僕を笑うどころかどこか嬉しそうにしていた。
男の人からしたら嬉しいことだとあの人は言ったけど、女の僕には分からなかった。少なくとも少女から女に変わったばかりの僕には、まだ分からないことだらけだ。
でもあの人が嬉しいと感じているならば、僕も初めてがあの人で、ディーノでよかったのだと思う。

それでも、


あの時普通に呼んだあなたの名前を呼ぶのは、なんだかまだ恥ずかしい。





面倒なことしか起きないと勝手に決めつけて、勝手な態度を取って、好き勝手振り回して。それで好きだなんて、俺はふざけた男だと思う。

そして生徒に手を出すなんて先生失格だ。

まだ間に合う、と恭弥に触れながらこの台詞を呟くと、恭弥はどっちが後悔するの? と言った。
続きをすることと、ここで中断すること。僕は覚悟は決めたよ、と俺に押し倒された恭弥は、いつもと変わらぬ表情で言ったのだ。
心で迷う俺に対して恭弥は迷うことなく、自分の意思で俺を受け入れていたのだ。鋭い視線に貫かれそうになり、またその視線にただ欲しいと思った。

目の前にいる少女が欲しいと、押し倒したのは続きがしたくてだ。
後悔するなら今じゃなくて後だと、それこそが後悔なのだから。


触れた場所は早鐘を打ち、緊張を露にしていた。やんわりと力を入れれば漏れる吐息。
聞いたことのないそれに理性は揺さぶられ、自身の昂りも増した。初めてのことではないのに、相手が恭弥という違いだけで分からなくなる。
言葉を選ぶのにも、行動するのにもいつもの倍以上緊張した。途中で駄目になって仕舞わないか怖くて、でも堪らなく欲しくて。

行為が終わる頃には思考までもが疲れ果て、同時に幸せに満ち溢れていた。





(この人は手を出すのが早い)

目が覚めた恭弥は、自ら受け入れておきながらそんなことを思っていた。
事後、二人はディーノが恭弥を抱きしめる形で眠りについた。ディーノの腕の中は恭弥にとって、心地好く安心の出来る場所だった。
今日だけは二人の間を流れる甘過ぎる雰囲気も心地好くて、もっと早く受け入れなかったことを後悔する。
恭弥に優しく接するディーノは偽りでもあり、真実でもあったのだ。本当はとても優しい人でありながら、ディーノは反対の面も持ち合わせているのだ。
それはマフィアという世界では身に付ける必要があり、ボスとなったディーノに自然と身に付いてしまったものだった。

新しいディーノの一面を見つけたこと、その事実に恭弥は少し優越感を感じ、ディーノに少し寄りそう。
瞳を閉じてもう少しだけこの幸せを感じていたいと思ったのだ。重い瞼はすぐに睡魔をもたらし、恭弥は再び眠りについた。
それに気が付いていたディーノは、知れば知るほど可愛い奴だ、と恭弥を優しく抱き寄せた。



(互いの幸せに浸かる)

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