11.ねぇ、ドクター

恭弥が修行中に怪我をした。傷はそんなに大きな傷ではなかった。しかし血が多かったことと際どい位置だった(太もものちょっと下)ため、俺は恭弥にシャマルに診てもらう様促した。
シャマルの名前を出した直後に恭弥はあからさまに嫌な顔をしたが、俺自身ちょっと嫌に思う面もあった。腕は確かでも女の子好き、恭弥を連れて行くのは抵抗があった。
それでも恭弥は自分の生徒であり、気になる存在である以上治療をして欲しかった。嫌なら常日頃から通ってる医者でもいいと言ったが、それでも恭弥は頷かなかった。


「恭弥」
「やだ」

いつもの屋上で修行と称してディーノが恭弥の相手をしていると、ディーノの鞭は恭弥の脚を弾き傷付けた。怪我を理由に中断したが、恭弥は中断されたことに対してもディーノが心配することに対しても苛々していた。

「病院まで送ってやるから行こうぜ」
「平気」
「平気じゃねーだろ」

ディーノは屋上の床に座った恭弥の向かいにしゃがんだ。視線の先のスカートから覗く肌、左足の太もものには一筋の傷が走っている。見れば見るほど傷は酷いものに見え、傷を残してしまわないか気になった。
思えば恭弥は以前も似たような場所を怪我していた。あの時は傍にいれなかったこともあってなのか、ディーノは傍にいる以上すぐに治療をさせてあげたかった。

「傷が残ったら困るだろ」
「困らない」

恭弥の頑固さにはため息が漏れる。ディーノはどうしても治療させたかったが、恭弥はそれを頑なに拒み続けている。
行き付けの病院に行くことすら嫌がる今、他にどう言えばいいのか分からない。

「俺が困るから行こうぜ」
「…なんで」
「恭弥は生徒である前に女の子だろ。傷を残したくねぇの」

(それは後々面倒臭くなるからでしょ)

そんな思いが恭弥の頭に浮かぶ。やっぱり自分はディーノにとって面倒な存在で、傷なんか残したらさらに面倒になる。そう思われているのだと決めつけ、その事実に少し嫌になる。
ディーノは優しい人だから、怪我をさせたことを気にして責任を感じているだけだと。そんな責任感からじゃなく、純粋に心配してくれるなら病院に行ってもいいのに。恭弥は困った顔をするディーノを見ながら、そんなことを思った。

「そんなの気にしなきゃいいでしょ」
「あのなー…」

気にしてるなんて嘘を言わなきゃいいのに。そう思うのに口には出せない。

「じゃあ病院に行くか、ロマーリオに診てもらうか選べよ」

ロマーリオは専門ではないが基本的な処置なら出来る。とりあえずこの場は恭弥がロマーリオを選ばないことは分かっていたので、ディーノは病院に行かせるために言ったのだった。

「…あなたがやるならいいよ」

恭弥から返ってきた言葉はディーノの予想を大いに外れた。まさかどっちも選ばれないとは思っていなかったのだ。

そして自分が選ばれるとは。

「え、」
「あなたもそれぐらい出来るでしょ。あなたが怪我させたんだから、あなたがやりなよ」
「い、いやぁそれはな…」

ディーノの頭は軽いパニックになっていた。自分でやったならその責任は自分で取れ、その恭弥の考えは分かる。が、状況がうまく飲み込もない。
そしてそれは素直に受け入れられる提案ではなかった。脚と行っても太ももに近く、恭弥の脚と言えども女の子の脚だ。まだ子供と思っても、気になり出してる以上意識せずにはいられそうにない。
現にディーノはすでに意識し始めている。

「早く」
「恭弥はそれでいいのか、」
「あなたが納得するならなんでもいいから、早くして」
「……」


そんなこんなで恭弥の治療はディーノがすることになった。屋上肌寒く、ディーノは場所を応接室に移すことにする。ロマーリオを先に向かわせると恭弥の脚を庇いながら、幼い子をだっこする様に抱き抱えた。
恭弥は軽く抵抗したが暴れたら痛みが出たのか、すぐに大人しくなった。ディーノは先を行くロマーリオの後を追いかけた。
応接室についてソファーに恭弥を下ろすと、ディーノは淡々と作業を進めていく。軽く会話をしながら、ディーノは意識しない様に気を付ける。
それでも恭弥はいつも通り会話に乗らず、ディーノは度々意識してしまった。

触れた脚はあまりにも柔らかく、男とは違うそれに、華奢な脚に

強がる恭弥に


愛しさに似た何かを感じた。




あの人に触れられた場所から、じわじわと鼓動が早くなる様な感覚に襲われた。

それでもこの気持ちがなんなのかは、聞くことは出来なかった。


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