geloso
本当はディーノが他の人と話をするのも嫌だ。僕以外の誰かとプライベートな話をする必要はないと思うし、僕以外の誰かと二人になる必要もない。
常に部下がいなくちゃいけないことも本当は気にくわない。そうしなければならないのは、あの人がへなちょこであるからと、ファミリーのボスであると分かっていてもだ。
ちゃんと分かっているはずなのに、それなのに。
最近の僕は今までもそうだったはずの些細なことに苛立ちを感じていた。この苛々がなんて言うものなのかは知らない。多分ただの、苛立ちだ。
「ごめん恭弥! 待った?」
「待ってない」
先日メールで連絡をもらった時間からはそんなに過ぎていない。けれど待っていないなんて嘘だ。
ここには僕しかいないけど、僕はあなたの知り合いの中で誰よりもあなたが日本に来るのを待っていた。そして、僕に会いに来ることを。
「来る時にツナのとこ寄ったら時間掛かっちゃってさー…」
なんで、真っ先に浮かんだのはそんな言葉だった。僕という人間が待っているのに、なんで草食動物の所になんて寄ってくるんだ。
ごめんな、と謝る言葉は苛立ちで頭に入らなかった。もういい、何がもういいのか分かってないのにそう言いたくなる。
「無駄話はいらない。早く相手しなよ」
あなたの話は無駄ばかりで、あなたの話は好きなのに嫌いだった。僕には必要のない話だから、草食動物には興味がないから、僕より優先した人間の話なんて。
苛々。
「恭弥? なんでんな怒ってんだ?」
「怒ってない」
これは半分くらい嘘だ。苛々を怒りと言うならば僕は怒っているけど、僕自身は怒ってないと思うから怒ってない。
表情には出していないのに、それでもディーノには知られてしまう。いつもだ。ディーノは鋭くて、僕の僅かな変化に気が付く。
それでもこの苛々の先には気が付かない。
「大丈夫か?」
「なにが」
「疲れてるならやめるか?」
「やだ」
心配した様子でディーノが腕を伸ばしてくるから、僕はそれをトンファーで払った。
いやなのは相手をしてくれないことと、理解してくれないこと。
「今日はやめようぜ、な?」
言うとディーノは僕を抱き締めた。すぐに振り払わなかったのは、やっとディーノに触れられたからかもしれない。
やっとディーノを独占出来たからかもしれない。ディーノはもう草食動物の話はしていないし、きっと頭の中は僕の心配でいっぱいだ。
おとなしい僕にディーノは珍しいなぁ、と少し嬉しそうに言った。顔は見えないけど、多分笑顔なんだと思う。
「寂しかった?」
「やだ」
違う、じゃないのは気が付いて欲しいことと違うから。あなたはなんで分からないの気付かないの。
――なんで、僕の嫉妬に気が付かないの。
(2011.06.30)
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10000HIT フリリク 伊織様
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