05:interview

進路が全く決まってない訳では無かった。自分の中での行き先は決まっていないに近かったが、担任に勧められた学校については一応調べてみた。
実際に通うとなると家から通えるのか通えないか、その学校ではどのようなことを勉強するのか、どんな授業が行われているのか。また試験のレベルはどのくらいなのかと。簡単に調べることは調べて、面倒臭いながらも最低一回は見学に向かった。
しかしそのどれもディーノには魅力的ではなくて、行きたいと思わせるものではなかった。どこも家から遠く、通うならば一人暮らしの方がいいと思えるところばかりなのだ。一人暮らしをしてまで通いたいのか、と問われればそう思える訳でもない。

(マフィア、か)

誰かに聞かれてしまったらまずいと思ってディーノは心の中でだけ呟く。リボーンから言われた一つの進路先。学校の進路調査でなんて絶対に書けないし、書いたとしても漫画の読み過ぎだとかなんとか言われて笑われてしまいそうだ。
日本に来てからはそ父親の職業に関係していた者とは一切連絡を取っていないし、顔すら合わせていなかった。数年だけだけど一緒の屋敷で生活していた部下の一人にも会っていない。会っていたのはリボーンだけだ。
そんな自分がマフィアなんて世界に入っていけるのかも分からないのに、リボーンは跡を継ぐというのもある、と言ったのだ。それはつまり、いつかはマフィアのボスになることないんじゃないか。

なれるなれないの前にディーノはそんなことを考えてしまった。もしもそんなことになったらこの家には絶対に戻って来れない。ディーノは此処で生活していくうちにこの敷地に住む者達がなんの職業に就いている人間なのか知ってしまったのだ。
この敷地に住む者、雲雀の名をもつ人間の多くは公務員、という職業についていた。それもマフィアとは正反対の職場に。そこで何となくディーノは父と母が一緒になれなかった理由が分かってしまったのである。
なぜ二人は結婚しなかったのか、何故子供が生まれたというのに一緒になれなかったのか。それはきっとお互いが一緒にいることの出来ない立場にいたからだ。母の父はそんな職場の中でもかなり上の職に就く人間だと聞いた。
それならば尚更だ。きっと母のことだから父の跡継ぎのことを考えて自分一人日本という遠く離れた地に帰ってしまったのだろう。

それならば、いくら自分がこの敷地の人間と合わない・違うからと言ってその職業を選んでしまう訳には行かなかった。母は自分の身を犠牲にして一人日本で離れて暮らすことを決断したというのに、それをやっぱりマフィアになりますなんて母に言えるわけがない。
なれる訳がないのだ。日本はイタリアと治安も違えばマフィアと一般人ではその身の危険度にはかなりの違いがある。イタリアにいた頃はリボーンになにかと身を鍛えるための鍛錬をされたが、今となってはその必要はまったく無かったと感じる。
たまにリボーンに怒られて一方的な攻撃を受けることはあるが、リボーンは多分いつも手加減をしている。層でなければいくらおもちゃの弾だといえどもあたりすぎて怪我をしていても可笑しくはない。

離れた学校には行きたくない、この家も離れたくない。マフィアにもなりたくない。

それならどうしたらいいのか、ディーノにはそれが分からなかった。
出来ることなら家から通える適当な大学に通って適当な安定した職業に就ければいい。拘りなんてないしなりたいものもない。今最も気がかりなのは弟の恭弥のことだけ。

恭弥は昔から人より繊細で、人よりも心身に疲労を感じやすい子だった。ここの敷地の人間は分かりやすすぎる程ディーノと恭弥を差別して扱う。それを恭弥がよく思っていないのはディーノにもよく分かっていた。
構われすぎて恭弥は誰かといることを酷く嫌がるようになってしまったのだ。群れを作ることを許さず、自分も群れに入らない。そうすることで恭弥は自分の場所を手に入れたのだ。
そんな恭弥をこんな所において何処かに行けるわけがなかった。
自分がいなくなったら、もしも兄弟という存在がいなくなったら恭弥はどうするのだろうか。言いたいことをはっきり言える相手がいなくなって、母のことは誰よりも気に掛けて、苦労を全部自分で背負って。
そんなことを恭弥にさせるわけにはいかなかった。恭弥がそれに耐えられないとなんとなくディーノは分かっていた。恭弥は普段トンファーを振り回し強がってはいるものの、本当は誰よりも弱い。

(恭弥を守ってやらなくちゃけないんだ、誰でもなくて俺が)

だからここを離れるわけにはいかない。


「どこに行きたいかはっきり決まったか?」

今日は先日から言われている三者面談の日だった。母が仕事を調整してわざわざ来てくれたというのに、ディーノは自分の将来を未だに決めかねていた。目の前に座る担任は未だにはっきりと決まっていないディーノに対してため息をついた。
まだ、と小さく答えるとそうか、となんとも言えない声音で返される。進路の決まっていない者と話す進路相談なんてもちろんなくてその日の話は意味の無いものに近かった。
担任のリストアップしてくれた学校について再度母も交えて説明を聞き、そこに言ってみた感想を担任に述べる。どうだ? と聞かれてどうとも言えない、と答えて。それの繰り返し。
どうしても一人暮らしはしたくないのだ、と繰り返してその日の話し合いは終わりを告げた。

「別に一人暮らしをしてもいいのよ?」

帰り道、母と自宅までの道を歩いているとそんなことを言われる。

「あなたのことだからきっとお金のこととか色々心配してるんでしょ? 家のことなんて気にしないで、自分のしたいことをした方がいいわ」
「…うん、」

母がディーノのためを思ってそう言うということはディーノ自身も分かっていた。分かっているけれど、けれど。ディーノにはやっぱり最後の一歩が踏み出せないでいた。
どうしたらいいのかやっぱり分からなくて、やっぱりやりたいことなんてなんて。まわりのみんなは既に受験モードに入っていて試験までのカウントダウンは減り始めている。
日に日に焦って勉強していくクラスメイト。生徒同士の会話もお互いの進路を聞いたりどこどこの学校見学に行かない? や行って来た感想を教えてとかそう言ったものばかりになる。
そんなクラスの中には確かにまだ受験という二文字と向きあっていない生徒も2,3人いたけれどそうゆう者達はたいてい成績があまりよろしくないもの達だった。出席日数も危うくてなんで3年になれたのか分からないものさえいた。
まわりの時間は早すぎるほどに動いているのにディーノの中でだけは時間の全てが止まっている様だった。

むしろ止まって欲しかった。

どうもなりたくないのだ。どこにも進みたくないのだ。ただ今あるこの時が大切で、今あるこの時で十分幸せだった。
大事な家族がいて大切な弟がいて、3人でいるこの空間が好きだった。この時が一番幸せだからそれ以上のものなんてなに一ついらない。望んでない。
それなのに時間は止まることを知らずにどんどんと勝手に経過してあっという間に季節を変えてしまう程に動いてしまう。


どうすればいい、どうしたらいい。

何度それを繰り返したか。何度それを考えたのか。
分からないほど考えてまた同じ疑問に戻る。ゴールの見えない出口の無いこの迷路にディーノはすっぽりとはまって抜け出せなくなってしまった。


一体俺は、どこへ。

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