04:examination

「来週三者面談するから、ちゃんと進路決めておくように」

担任がそう言うと帰りのHRはお開きとなる。一斉に教室がざわついてがたがたと机と椅子を動かす音が響く。部活に向かう者もいれば、そのまま帰宅する者も少なくはない。三年生になって部活をしている者はぐっと減った。早い者は二年で引退をしてしまい、長い者では最後の大きな試合までは部活を続けている。
ディーノは特に部活にも入っていなくてすぐに家へと帰宅する。大半の者が受験に向けて予備校や塾に通っていたが、ディーノはどのどちらにも当てはまらなかった。
成績が下がればどこから現れたのか家にはリボーンがいて、理解できるまでしごかれた。そんな風に勉強はしたくなくて気が付けば自分で必死に勉強していた。
恭弥が小学校に進むと恭弥が勉強するのが好きだと分かり、駄目な兄だとは思われたくなくてそれまで以上に勉強をした。だから成績は悪いと言われる範囲まで落ちたことはなかった。勉強には問題はないと担任にも言われている。
けれどディーノはこれから先の将来のこと、受験に悩みを抱えていた。

「はぁ、」

家に帰る途中、信号が変るのを待っている間に漏れたのは一つのため息。ディーノは明確な将来を決めかねていたのだ。正直に言うとどこの分野に行きたい云々よりもあの家から離れるのは嫌だった。
担任との進路相談ではいつまでも決めないからという理由で、成績にあった向いてそうな学校を幾つか紹介された。それでもよかった。が、それはどれもこれも今の家からは遠く、一人暮らしでもしないと通えなさそうな所ばかりだった。
一人暮らしをすることに嫌だという気持ちはなかったが、ずっと迷惑をかけっぱなしの母にこれ以上縋るのはどうかと思われた。それに明確な通いたい理由があるわけでもないのに全てを母に出してもらう訳にもいかなかった。

「ただいま戻りました」

本家の大きな門を通って敷地内にある自宅に向かわなくてはならない。ディーノはこの本家の大きな門を通るときが一番緊張する時だった。近くに誰もいなければぱっと通って早足で自宅に向かう。が、この家には雇われ人が多くいて誰もいない日なんて滅多になかった。
誰かがいるときは今みたいに声を掛けなくてはならないのだ。それが例え返事を返そうとも思っていない相手でもだ。今日は返してくれる人だったのか、軽い会釈と言葉を掛けられる。適当に返してなるべく急いで自宅へ向かう。

朝は裏から出るのでこういったことを気にしなくて済むのでとても楽だった。
この敷地の中では容姿から異色の自分は酷く浮いてみえる上に、長いことここに暮らしてきたというのにまだディーノをよく思わない者が多いのだ。しかし恭弥の父はそれなりの権利のあった人物なのか、恭弥はこんな扱いをされることはなかった。
むしろ構われすぎて恭弥はいつの間にか群れが嫌い。と口にするようになってしまったのだ。家に帰って来るときも誰にも見られず静かに帰って来る。ディーノもそれをしてみようかと考えたことがあったが、どうしてもどこかで転んでしまい失敗するのだ。
それで余計なことをしてしまい怒られたことは少なくはない。恭弥が中学へ進む頃には「うるさいんだけど」と家から出てきた恭弥に助けられることも何度かあった。
その度に「気をつけなよね」とうんざりした様子で恭弥は言うのだけれど、いつも助けに来てくれるあたり嫌われてはいないのだと思う。朝も基本的には一緒に家を出る。

「ただいまー」

やっとのことで着いた自宅の玄関の扉をあけてお決まりの挨拶を言う。が、この時間には誰もいるはずがなくて勿論返事は返ってこない。のがいつものことであるのに…

「帰ったかへなちゃこ」
「いてっ」

玄関にはリボーンが仁王立ちしていて目が合うとリボーンの手に収められていた小さな銃からぴこんっと何かが飛び出してきて額にあたる。額にそれがあたるとバランスを崩してそのまま尻餅をついてしまった。
少しだけ痛い額をおさえて玄関のタイルを見つめるとそこにはカラフルな色の小さなゴムボールが一つ。どうやらこれがリボーンの銃から飛び出した弾らしい。

「避けることもできねぇで転けるなんてなさけねぇぞ」

ぴょんっとリボーンが飛んでくる。

「ぐえっ」

どう見ても軽いはずのリボーンがディーノの腹部へ降り立つと、ディーノは潰れたカエルの様な声を出す。軽いはずで、軽く飛んできたはずなのに着地したときの衝撃はとんでもないものだった。

「もー、なんなんだよリボーン!」

今も腹に乗ったままになっているリボーンを飛ばしてやろうと手を払ったのにリボーンは軽々と避けて、ディーノの攻撃などまるで意味がないとでも言うように軽やかに近くに着地する。
ディーノはリボーンに敵わないのは分かっていたのでそれ以上反撃するのを止めた。靴を脱いで中に入る。すると勝手にリボーンはディーノの肩に飛び乗って部屋まで着いてくる。それはいつものことなので気にしないでおいた。

「エスプレッソ」
「はいはい」

そしてこの台詞もお決まりだった。いつも勝手に来てはここに住んでいる人間よりも偉そうにしていて、飲み物を請求する。これがまずかったり遅かったりすると蜂の巣になるんじゃないかというくらい弾を浴びることになるのだった。
先程の玄関で受けたようなカラフルな色の弾なので、勿論死にはしないのだが。室内ということもあり実弾は使わないらしい。こんな怖いとしか思えないリボーンなのに何故か弟の恭弥は懐いていた。
リボーンが家に来れば相手をしてと頼み込んでいる。怪我するから危ないだろと止めても聞く耳すらもたない。一度恭弥の相手をさせられたこともあった。何故か恭弥には勝った訳だけれど、ディーノにはその理由が分からなかった。
リボーンはお前は素質があるからな、と言っていたがそれは出生に関係していそうで考えるのが嫌だったからすぐに考えるのは止めた。

「ほら」

リボーンには要求されたものを。自分はコップに麦茶を入れたものを持ってきて机に座る。リボーンはいつの間にか自分専用の椅子を持ち込んでそれに偉そうにくつろいで座っていた。

「何の用があってきたんだよ」

ディーノはリボーンがここに来た理由が分からなくて尋ねた。いつもここにリボーンが来るときは何か問題が合ったときか、ディーノの成績が落ちたときなのだ。それかまたは季節のイベントの日だったり。クリスマスや誕生日にリボーンがいることも何回かあったのだ。
ただ今回ばかりは思い当たる理由が何一つなかった。何かしてしまったことも思いつかないし、成績も落ちていない。むしろ良好だ。

「へなちょこが悩んでると思ってな」

だから来てやったんだぞ、と続きを聞かなくても何が言いたいのか簡単に予想ができた。しかしそれが何に対してなのか少し分からなかった。悩んでいることが無い訳ではないが、家族に話してないこともある。

「どうするか悩んでんだろ」
「何が?」
「これからのことだ」

これから、それが将来のことを示していると分かってしまう。悩んでるどころかまだ何一つ決められていなかった。まだ一歩も足を踏み出していないのだ。
素直に悩んでますとも言えなくて黙ってしまう。

「何も決まってねぇのか」
「…どうしたらいいのか分かんないんだ」

そんなことを言ってしまったら怒られそうだったのにリボーンは何も言ってこなかった。駄目ともやっぱりへなちょこだな、とも何も言われなかったのだ。
よく分からない沈黙が流れてしまう。

「一つの案として、親父の跡を継ぐっていうのもあるぞ」
「は、」

なんだそれ。思わずディーノは思ってしまう。父親、この家ではその存在がいない。それはディーノg来たときにはすでに存在していなかったから、ディーノはこの家の父親の存在を知らない。だからリボーンの言った父親とは実の父親だと言うことが予測できる。
その父親の職業はマフィアという日本には馴染みのないもので、父はそこでボスだった。父の跡を継ぐ、つまりそれはマフィアのボスを示していた。


(そんなこと、)


そんなことできない。とは思うのになんとなくそれをすぐに口には出せなかった。

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