02:mother

ボスを失ったその日、生き残ったファミリーの中で一番初めにあがった問題がボスの息子をどうするかというものだった。まだ7歳で学校には通い始めたばかりだ。
ファミリーを継がせるなんて勿論論外で、だからといって誰かが引き取る訳にもいかなかった。もしも誰かが引き取ることが出来たとしても、それは今巻き込まれている交戦が終了してからだった。
幸いディーノは学校の寮にいるために巻き込まれると言うことはないが、いつその寮を追い出されることになるか分からない。交戦が終わるか、寮を追い出されるか。未来のことなど誰にも分からなかった。
ただ全員共通して思っていることはディーノをどうするかと言うことだった。そんな時一人の赤ん坊、リボーンが現れたのだ。
彼はボスの旧友であるということはファミリーに知らされていたが、何故彼が赤ん坊なのだとか、彼とボスが何をきっかけに今の関係に発展したのかを知るものは誰一人としていなかった。
突然現れた彼はディーノのことは自分に任されているから何も心配するな、あいつのことはもう忘れてやってくれと告げる。その発言からディーノの行く宛があることが分かった。
同時にその存在を無かったものにしろと言うことも。

リボーンの腕の良さを知らない者はいるはずもなくて、その場で反論しようなんて輩は誰一人いなかった。みな黙ってディーノのことを任せることにしたのだ。


「お前はジャポーネに行くんだ」
「ジャポーネ?」

リボーンがディーノの元に現れてから数日、寮にあった少ない荷物をまとめてディーノはリボーンと空港へ来ていた。それまで本当とやらがいる場所、これから向かう場所を知らされていなかったディーノは、このとき初めてそれを知ることが出来た。
それは父が生前好きな国の一つだと言っていた一つの国だった。理由は秘密だと言っていつも教えてくれなかった。そして必ず最後には"母さんには内緒だ"と付けて。
この数日間でリボーンに多くのことを教えて貰った。本当の母は異国の人であったということ、何故離れなければいけなかったのかと。

リボーンの話を聞いて今まで不思議だと感じていたことに、パズルのピースが上手く嵌るように納得することが出来るようになった。何故母が自分を遠くを見つめるような目で見ていたことがあったのか。
父と母の間には何故見えない壁の様なものがあったのか。分からない全てが埋まっていく。

「お前の本当の母親は日本人だからな」
「日本…?」
「そうだ、言葉も文化も違う所だ」

言葉も違う、そう言うとリボーンは今ディーノと交わしている言語ではない異国の言語で話す。ディーノには理解することは出来なかったが、それは最近父に習い始めた言語にすごくよく似ていた。

「大丈夫かな…」

全くと言っていいほど理解できない言語と知り合いも誰もいないまだ行ったことのない異国、その二つの不安にそう漏らすとリボーンは安心しろ、と告げた。

「ちゃんとお前の母親には連絡してある。向こうに着いたら迎えに来てくれるらしいぞ」


***


「やっと着いたぁ」

長い長い初めての飛行機での空の旅を終えてぐったりとしながら空港に降り立った。初めての飛行機は初めこそはわくわくして楽しくてたまらなかったが、時間が経つにつれてそれは薄れていってしまった。
閉鎖空間で、しかもほとんどの時間を座席で過ごすというのはまだ子供のディーノには耐え難いものがあった。本当はまだなのー! と暴れ出したいほどに時間はたっぷりあった。
でもそんな我儘はリボーンの隣で言えるはずがなかった。空港に来るまでに散々怒られ怖い思いをしたので、そんな思いをこれ以上したくなかった。機内では子供用のおもちゃを与えられたがそれにはすぐに飽きてしまった。
時間が過ぎるということに待ち疲れてしまい気が付けば眠りについていて、リボーンに起きろと言われて起きた時には体中が痛かった。

「寝てたじゃねぇかよ」
「だって暇だったんだもん」

てくてくと自分よりも小さなリボーンに続いてディーノも歩く。ディーノ荷物は小さなリュック一つだけだった。必要なもので残ってたものは先に送ったとリボーンは言っていたが、ディーノはそれがあんまり信じられなかった。
リボーンの言うことはどれもこれも唐突すぎるのと現実味が沸かないものばかりなのだ。

「本当に迎えに来てくれてるの?」

不安だったのでリボーンに尋ねると嘘は言わねぇ主義だ、と言われたのでそれは嘘だろうと眉間に皺を寄せた。明らかに不満だと頬をふくらませると周りの人の視線が集まった気がした。
それは可愛いという意味のものであったが、異国の地で異国の言葉で言われても理解出来なくて、ディーノは怖くなってリボーンに駆け寄った。

「連れてきたぞ」

どんっ、と突然立ち止まったリボーンにぶつかってしまうと聞こえたその声。上に向かって言っている、と言うことが分かって上を向くと小さな子供を抱えた女性と目があった。

「ディーノ?」

と母国語で尋ねられたので、こくり、と頷くとすぐさましゃがんだ女性に抱き寄せられた。よかった、会いたかったわ、と呟かれた声は全部ディーノの母国のものだった。
くしゃりと髪の毛に入れられた手から、身体に回された腕から温もりが伝わる。今まで母親だと思っていた人にはここまで強く抱きしめられたことがなくて、それは父のそれと似ていた。
母がこういったことをあまりしてくれなかったと今では思うが、その変わり父だけは母の倍以上してくれたということを覚えている。

これが本当の母親で、自分を産んでくれた人。本当に嬉しそうに抱きしめて泣いてしまうのでディーノも釣られて視界が霞んでしまった。




初めて降り立った先で、初めて産みの母親に会って引き取られることになりました。



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