初めてのこと

頬とおでこをいっぺんにぶつけるなんてどうゆう歩き方しているの? と朝保健室に行けば言われ、ディーノも綱吉も苦笑するしかできなかった。頬はリボーンのせいで、おでこはいつものへなちょこだ。でもディーノ自身は自分のへなちょこさに気がついておらず、よく転んでしまうのもたまたまだと思っていた。
朝からおでこと頬を冷やすシップを貼られると、ディーノは一日クラスの話題の人となった。そこをぶつけた理由にはみんな呆れたように笑っていた。歩いてて前の壁に気がつかなかった、なんてそうそうあることじゃない。

そんな話題の人となったディーノはクラスメイトだけではなく、教科担任にまでからかわれる一日を過ごした。放課後にはシップは冷たさを失っていたため、ディーノはそれを剥がしてぽいとゴミ箱へ捨てた。このまま帰ったら屋敷でもからかわれるのは目に見えていたからだ。
帰ろう、そう思った時に今日一日会わなかった人物が現れた。

「屋上へきなよ」

教室を出ようと思うと廊下のすぐ向こう側に昨日見た人物、恭弥が立っていたのである。その手にトンファーは握られていないものの、鋭い目つきはすぐにディーノを捕まえた。殺気とまでは行かないピリっとした視線がディーノに向けられる。
その目にまたきっとなんかあるんだろうなぁ、と予想できたディーノはその理由を聞かなかった。少なくとも昨日みたいな階段ではなく、広い場所であれば誰かに見られる心配も動き辛さも感じないだろうと思ったのだ。それならば勝てると思っていた。

「続き」

恭弥の後をついて屋上へきたディーノ。恭弥は最上階から続く階段をさらに上へ、屋上の扉を開けて中程まで行くとそう行った。思った通りの言葉にディーノは苦笑いすることしかできなかった。もちろんどんなに恭弥がやる気を出しても、相手をしてやる気はなかった。
そもそもリボーンの授業とやらは確かに自分の身を守るものではあるが、対一般用ではない。自分の命をその手の人間が狙ってきた時のためだ。

「それって、昨日の?」

ディーノは続きをする気は全くない。話に乗ってやる気もなくわざと分からないふりをした。

「それ以外になにがあるの」

早くして、そう続けると恭弥の手には慣れた手つきでトンファーが用意される。そんな姿をディーノはのんびり慣れてるんだなぁ、とやっぱり興味なくそんな風にしか見ていなかった。恭弥のやる気はどこから来るのかが分からなかった。

「俺は好きじゃない」
「何が」
「こうゆうの」

ディーノが言うと恭弥はムっとして、少しだけ僅かに眉間を動かした。恭弥はディーノのほとんどが気に入らなかった。突然やってきた転校生。やたらと目立ち、やたらと群れを作っている。恭弥が群れとして気になっていた綱吉とも知り合いであり、嫌いな群れはまたそこで発生していた。
一人でいることの方が少ないんじゃないかというディーノ。恭弥はディーノの派手な見た目をあまり好きではなかった。目が勝手に見つけてしまうその髪は苛々の種だ。

「そんなの聞いてないよ」

そのままトンファーを構えて前屈みに一発。今度こそ、そう思った恭弥のトンファーはやっぱり決まらなかった。ディーノは手早く取り出した鞭でトンファーが自分に当たらないように防いだのだ。柔らかくて長いそれに防がれるのは屈辱で、昨日も今日も一撃も与えられないなんてもっと屈辱だった。

「俺闘うの好きじゃねぇんだよっ」

恭弥からの攻撃をかわしながらディーノは言った。何があってもディーノは避ける、防ぐ以外のことはしなかった。自分から恭弥に攻撃をしかけることはなく、なるべく距離を保つ。接近戦でないと意味のない恭弥は一歩前に出てもすぐにその差を広げられる。
また恭弥は苛々する。

「好きとか嫌いは関係ない、そう言ったはずだよ」

相手の意見なんて関係ない。咬み殺したいから咬み殺すだけ。それだけだ。
それなのにそれが二度も叶わない相手。そして嫌いと言いつつも目つきは昨日と同じように鋭くなったディーノに、恭弥は興味をそそられた。ちゃんと相手をしてくれればきっといい相手になるのに、ディーノはそれをしようとしない。

カラン、

前に出した恭弥の右手、そこにあったトンファーは次の瞬間後方へ飛ばされていた。絡んだと思った鞭は恭弥の攻撃だけではなく、武器をも奪っていったのだ。
恭弥はただその事実にびっくりすることしかできなかった。


はじかれるなんて、初めてだ。

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