へなちょこ

少なからず俺もあいつと同様に苛々していたのだと思う。そう思う原因は違っていただろうけど。


踊り場に恭弥を置き去りにして忘れ物を取りに行ったディーノは、家への帰り道に相手の名前を聞かなかったことを思い出した。

「ツナもう帰ってるかな?」
「なんだ坊ちゃん聞きたいことでもあるのか?」

今日もいつもの様にタイミングよく偶然現れたロマーリオに車に乗せてもらい、いつもと変わらない下校をしていたディーノ。後部座席で呟いた独り言は運転席にいるロマーリオの耳にもしっかり届いていた。
聞きたいこと、と聞かれればそれは確かにそうだったがそんなに重要なことでもなかった。明日にでも学校で聞けばいいようなこと。ただ頭の中で気になる存在になっているだけのことだ。

「まー、そんなとこ」

ディーノがそう答える頃には車はいつもの道をそれ、綱吉の家に向かっていた。


「で、ディーノさんもしかして"咬み殺す"って言われたんですか?」

綱吉の家に着いて数分。案内された綱吉の部屋で気になるあいつのことを聞いてみた。まずは本当に咬み殺すって言うんだなってことと、半殺しは嘘じゃなくてなんで怒られないんだろうなぁという疑問。ディーノは今日あった出来事を普通に話していたが、綱吉はそんなディーノに疑問を抱いていた。
簡単に雲雀恭弥の存在を口に出来ることに驚いた。そして危ない奴だよな〜あいつ、と言うディーノ自身に大きな怪我どころか小さな怪我すら見あたらないことに。

「おー、言われた」

そう言ったよな? ディーノは続けて言った。ディーノはその確認に話を聞いてもらえてなかったのだろうか、と疑問に思ったが実際はそうではなかった。綱吉はディーノの言うことが信じられなくて確認を取ったのだ。あの風紀委員長に咬み殺されて無傷だった人間なんて知らないのだ。
過去に咬み殺された経験のある綱吉は恭弥の話をするだけでも、嫌な記憶を思い出す。ケロリとした様子のディーノが信じられない。

「トンファー? で殴られそうになったぜ」
「よく怪我しなかったですね…」
「?」

ディーノは綱吉の驚く意味が分からなかった。

「ヒバリさんに咬み殺されて無傷だった人、いないですよ。多分ですけど」

かなり強いんですね、綱吉はそう続けるつもりだった。しかしそれは出来なかった。何故なら横から突然遮られたからだ。

「ディーノが強ぇのは当たり前だぞ、ツナ」

そう言うのはさっきまでいなかったリボーンだ。いつもの様に気まぐれに現れたらしい。ディーノとリボーンは「ciao」と聞き慣れない国の言葉で挨拶を交わしていた。
数秒後には「気取んなへなちょこ」とリボーンの発言と共に蹴りが勢いよくディーノの頬に命中していたが、それは見ていないことにしておいた。

「いって、」
「へなちょこが調子に乗るな」
「もうへなちょこじゃねぇよ!」
「一人で登下校もできねぇだろ」
「なっ、それは、あれだ…! まだ道を覚えてないだけで「へなちょこに間違いねぇ」

ツナもこいつの顔に騙されるな、リボーンはそう綱吉に言うのだった。再びディーノの頬を蹴りながら。


(リボーンにとってディーノさんはへなちょこ以外の何者でもないらしい…。)

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