勝ち負け

つまらない、学校にいてもつまらない。

群れを咬み殺すのは学校のためが半分、自分のためが半分だった。一度咬み殺されると二度、三度と咬み殺されるものはほとんどいなかった。
少しずつ人数を増やして狙ってくる者が数人数回あっただけ。ほとんどの生徒が僕に逆らうのを止めた。そして群れも僕の目の前では静かになったり解散したりする様になった。

始めは少し楽しめていたそれは、いつの間にか手応えと相手がいなくなってつまらなくなった。楽しみが失われた僕の元に現れたこの目の前の人間は頭の色から校則違反だった。日本人であれば。
聞いた話によると彼はイタリアから来たらしい。けれどもそれらしさはすごく少ない。海外から来たというのに滑らかな日本語、気取らない態度、それに生徒はまた群れを作るようになった。
おかしなことはそれだけではなかった。

僕は、この人に負けたのだ。

いつもだったら一撃目から手応えのあるトンファーはいつまでたっても空ばかり切り、仕舞には壁とぶつかって大きな金属音を立てた。それからはびっくりする程流れが速かった。気がついたらあの人は手に鞭を持っていて、僕のトンファーは音を立てて斜め下の踊り場に落っこちていた。
しかも二本共だ。


「校内で物騒なもの振り回すなよ。俺じゃなかったら怪我どころじゃねぇからな」

ディーノは階下に落ちたトンファーを見つめて言った。そして手に持っていた鞭を近くに放り投げられた自分の鞄にしまう。
半殺しにされる、その意味がディーノにもよく分かった瞬間だった。風紀委員長の雲雀恭弥はディーノが想像した以上に危険な存在だったのだ。確かにとても強い。しかしディーノには及ばなかった。
昔からリボーンの"授業"というものに比べれば楽なものだったのだ。

「なん、で」

恭弥はただただ目の前の出来事に驚くことしか出来なかった。攻撃を避けられただけじゃなく、トンファーまで取り上げられたのだ。相手が戦う術を持っていたことだけでも驚きなのに、負けてしまったのだ。

「なんで?」

ディーノは恭弥の言葉の意味が分からず繰り返す。

「あなたなんなの」
「なんなのって言われてもなぁ」

鞭を鞄にしまったディーノは服の埃をはたきながら言った。そこには先ほどまでの緊張感もない上に、鋭い視線もなかった。ディーノ自身は気がついていないが、ディーノの顔つきは攻撃態勢と今では随分と違うのだ。
わかんねぇや、そう続けたディーノの顔には柔らかい笑顔。恭弥はその笑顔を向けられる理由も、負けた理由も分からなかった。悔しかった。こんなにも簡単に負けたことが。

「あ、俺忘れものあったんだ。じゃあな」
「やめてよ!」

そう言ってディーノは恭弥の横を通り過ぎると共に、恭弥の頭を撫でた。それは置いただけの様なものであったが、当然恭弥は嫌がりすぐに手を払い落とした。

「次は負けないよ」
「もうやらないよ」

上へと続く階段をあがるディーノは途中で止まり振り向いてそう言った。その目は先ほどの様に鋭さを持っていて、その目が少しだけ恭弥に恐怖をもたらせた。負けたなんてただでさえ悔しいのに、相手に恐怖感を抱くなんてらしくない。
自分の学校という空間を乱し、さらに自分の中までも乱していったディーノに恭弥は苛立ちを感じるしかできなかった。


(勝ち負けにこだわってた訳じゃない。だって負けたことなんてない。負けるはずがない。



なんなの、あの人、)

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