群れは咬み殺されるべきだ

――もしも風紀委員長に遭遇したらとにかく早急にその場を離れろ。絶対に誰かに助けを求めて近付いたりするな。


それは何日か前に風紀委員長の存在を知らされた時に教えてもらったことの一つだった。誰かに助けを求めるな、というのは周りを巻き込むなという意味らしい。風紀委員長はとにかく群れという群れを嫌っていて、群れを見つけるとすぐ咬み殺すのだと言っていた。
殺すなんて物騒な言葉を使っていても所詮は高校生、学内で生徒が生徒に行うことだから大したことないに決まってる。そう勝手に決めつけたディーノだったが、すぐにそう考えるなと言われてしまった。どうやら咬み殺すというのは言葉だけではないらしい。
大抵が、半殺しかそれ以上らしい。

(それっていじめとか、そうゆう問題になるんじゃねーの、)

そう思うディーノであったが、相手は教師すらも恐れる人物。つまり影のトップなのだ。

そんな人物が今目の前にいるだなんて信じたくはなかった。

「僕がそれで許すと思ってるの」

ピリ、恭弥は表情も口もあまり動かさずにそう言ったが、その場の空気は緊張感を増してディーノと恭弥の二人の周りを漂った。危険だと身体の中の何かが告げているからこそ、ディーノはそれを感じ取っていることを顔に出さないようにした。

リボーンからの教えにこんなものがあった。例え勝てる可能性が無かったとしても、相手に恐怖しか感じなかったとしてもそれを相手には見せるなと。大きな企業のトップの息子と言うことで媚びを売ってくる連中は大勢いる。それと同時にその存在を利用する連中もいることを忘れるな、とリボーンは言ったのだった。
弱みを見せることは相手に有利に思わせることと隙を作らせることができる。ただしこの方法はあまり使うな、とリボーンはディーノのへなちょこさを心配して言ったのだった。その心配はディーノには伝わっていなかったが。
しかし今回ディーノの目の前にいるのはそのどちらでもない。ディーノを狙って近付いて来たわけではない上に、きっと誰が相手でも恭弥は同じ態度を取るだろう。

「ねぇ、聞いてる? …僕を無視するなんていい度胸だね」
「あ、悪い。考え事」

恭弥の眉間にわずかに皺が寄る。ディーノにも自分の今の一言が恭弥を苛立たせたことは分かっていた。ディーノは恭弥に近付くために踊り場まで軽いリズムであがった。この状況を気にしていないように。
近づくとますます恭弥は不機嫌さをあらわにした。

「悪いけど、俺はお前を知らない」

近付いてみると自分と恭弥の身長差に気が付いた。ディーノはそれまで感じていたものが少しだけ軽くなった気がした。きっと年下だ、しかもすごく細い。強いと言われているくせに細いなぁなんて思っていた。

「名前教えてくれるか?」

わざと身長の低い恭弥に目線を合わせ、そのためにディーノは少し屈んだ。近付いてみると気が付くことは多かった。
それらはディーノから余裕を取り戻させる。その余裕からクラスで自己紹介した時のような笑顔がディーノの顔面に現れる。自然と話しかけられる。

「やだ。咬み殺す」

言い終わると同時にディーノに一撃が繰り出された。ディーノはそれに気が付きすぐさま横に移動した。ディーノに命中するはずだった恭弥の腕は空を切って元に戻る。恭弥の手にはトンファーが握られていた。

(学生がトンファー? 半殺しにもなるに決まってるだろ!!)

「あっぶねぇ」

思わずディーノの口からそんな言葉が漏れると、恭弥は少しだけ驚いて少しだけ楽しそうに言った。

「面白いね、あなた」

恭弥が面白さを感じる反面、ディーノは面白くないと思っていた。安全である日本で、学校でこんなことになるなんて予想もしていなかった。少なくとも殺されることは無いだろうが一撃でも当たったら怪我をする。
少しだけ屈んで恭弥は二発目に入った。

「咬み殺しがいがありそうだ」

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