漆黒の委員長

「一緒帰ろーぜ」
「おう、今行く」

並盛に転入してきて数日。クラスに馴染めなかったらどうしよう、友達が出来なかったらどうしようと考えていたディーノだったが、その問題は問題になることすらなかった。ディーノの性格からクラスと仲良くなるのも馴染むのもあっという間だった。
企業の息子、というのは公にしないでもらっていたからか、生まれた国は違えど同年齢のクラスメイトは話もしやすかった。

真新しい友人に一緒に下校しないかと誘われるのはいつものことだ。そしてディーノはいくらお金持ちのお坊ちゃまといえど高校生。送り迎えは頼まず自分で徒歩で通っていた。ただいつも迷子になってしまうので朝は必ず綱吉と一緒に、帰りは偶然現れるロマーリオに車に乗せてもらうのだった。
もちろんロマーリオは一緒に下校する生徒と別れてから現れる。偶然と思っているのはディーノしかおらず、これは偶然でもなんでもない。

「あ、」

今日一緒に帰ることになった一人と玄関まで来ると、ディーノは急に声を上げた。

「? なに?」
「忘れもんした!」

上履きから外履きに履き替えようと下駄箱から出そうとした靴。慌てて戻すとディーノは今来た道を走って戻る。待ってようか? と背中に聞こえたが、待たせるのは悪いと思い、待ってなくていいからとディーノは返したのだった。降りてきた階段をまた上に上がる。途中躓いて転びそうになって、鞄が頭にぶつかる。

「いって、」

自分の肩に掛かった鞄でぶつけた頭。じんわりとした痛みに頭をさすってまだ上を目指す。ディーノのクラス、三年生の教室があるのは三階でここは二階だった。
よし、と階段を駆け上がろうとしたとき。

そんな時、見慣れない人物が上の踊り場に現れるのが目に入った。


ディーノはまだ噂でしか聞いたことがなかったが、この学校で気をつけなきゃいけない人物がいることを知っていた。みんなが恐れ、その人物は先生ですらも恐れる人物だと聞かされたのだ。じゃあその人物は見た目が怖いのか? と尋ねたが、どうやらそうではないらしいのだ。
ディーノが登校初日以来偶然会って以内人物で、大抵は校門で生徒の服装などをチェックしている人物。風紀委員長がその要注意だとみんなは言ったのだった。風紀委員長なら厳しくて当然じゃないのかとディーノは思ったが、その厳しいには通常の意味での厳しいだけが含まれているだけではない様なのだ。
風紀委員長でもありながら不良の頂点に君臨しているという、最強かつ最凶なのだ。ディーノには"不思議な奴"そうとしか認識できなかった。


なぜこんなことを急に思い出したのかと言うと、目の前にいる人物にピンときたからだ。きっと、彼が"不思議な奴"なのだと。

「ねぇ」

見慣れない制服。この学校の制服はブレザーであるのに、目の前の人物の身につけている制服は学ランだった。しかも上着は肩から羽織っているだけでその上着の袖には腕章が付いていた。赤い記事に黄色い文字ではっきりと風紀委員と書いてある。間違いない、この人物が生徒だけでなく先生も恐れる存在なのだ。
だからディーノは見ないふりをして通り過ぎるつもりだった。それなのにその人物は話しかけてきたのだ。

「な、なに」

きっと年下であるだろう上に、ディーノより低い身長。怒っているという程の表情でもないので恐れることはないと思うのに、なんだかオーラがありどきりとディーノの心臓が跳ねる。
賭だそうとした脚は一段上でぴたりと止まった。

「校内を走るのは禁止されてることだ」
「え、あ、ごめんなさい」

じっと見つめる漆黒の瞳に捕まって脚も身体も固まる。やっと動いた口元でディーノはすぐに謝った。
こんなに殺気のような緊張感を味わうのはリボーンの"授業"とやら以来だ。とにかく本能が告げていた。危険だと。


この学校の風紀委員長が恐れられる理由が分かった気がした。

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