全ての始まり

出発前夜、俺は遠足が楽しみで眠れない子供の様な気分だった。しかしそれとは少し違っていた。違うのは俺が小学生ではないということと、眠れないのは決して明日が楽しみではないということだ。
むしろ出来ることなら俺は明日が来て欲しくなかった。このまま目をつぶらないでいれば明日は来ない上に、朝はやってこない。そんなことばかり望んでいた。

だけど俺がどんなに来て欲しくないと願っても、俺が眠れなくても朝はやってくるのだった。やっと眠りにつけたのは空が明るくなり始めてから。当然気分は最悪な目覚めだった。
そして今日から最悪な日々が始まる。


***


事の発端は数日前のこと。ディーノは父親に呼び出され何かと思えば突然日本に行って来いと言われたのだった。突然すぎるそれにはいわかりました、なんて言えるはずもなくディーノはその理由を尋ねた。
すると自社キャバッローネ社と良い関係のボンゴレ社が日本にあるから、そっちの跡継ぎと仲良くしておけと言われた。つまり、

これは将来のためと言うことなのである。

ディーノはこの事に賛成はしていなかったが、いかないと断れるわけもなかった。自社の跡継ぎは一人息子の自分だと幼い頃から言われていた上に、そうなるのは免れられないとわかっていた。
そしてこれはその未来の決定打だった。もう違う道を選ぶことは絶対に出来ない。この突然の留学を終えたらディーノは父の後を次がなくてはならないのだ。

「わかった、」

行きたくないなんて言えるはずもなく、ディーノは一つしかない選択肢を口にしたのだった。


***


「ちゃんと眠れたか?」

すっきり、というにはほど遠いディーノの顔を見て世話係のロマーリオが言った。ロマーリオはディーノが小さい時からいる世話係だ。父親よりも一緒にいることが多く、話すことも多い。
そんな父親の代わりと言ってもいいようなロマーリオが付いてきてくれることで、ディーノの不安は少しだけ、本当に少しだけ減っていた。

「大丈夫か?」
「…そう思うのかよ」

ロマーリオの発言にディーノは少しだけ苛々した。大丈夫なはずがなかった。睡眠は全くと言っていいほど取れていない上に行きたくもない日本。
苦笑と言うより諦めろ、とでも言うかの様に笑うロマーリオの笑顔に子供扱いされている気分だ。実際ディーノはまだ成人していないので子供ではあるが、そんな扱いをされるのが嫌いだった。

「ふぁ」

口からあくびが漏れる。許されるならこのままベッドに戻りたい。
しかしそんな我が儘も叶えられるはずもなく朝食の準備を促され、ロマーリオに半ば監視されるようにして朝食を食べるディーノだった。
出発はすぐ、身体のためにもちゃんと食べろという意味でロマーリオは傍で見ているのだった。そしてそれに気付いているディーノは無理矢理口の中にパンとスクランブルエッグを押し込んだ。



「忘れ物はないか?」
「た、ぶん」
「まぁないものはあっちで買えばいいな。ほら行くぜ」
「はぁ〜い…」

荷物はロマーリオによって車の中に。そしてディーノ自身も荷物の様に車の中へ押し込まれた。空港へ向かう車の中、窓から見えた屋敷はどんどん遠くなり小さくなる。もうここへは戻って来れないんじゃないかと思うくらい、気分は沈んでいた。

気が重いまま空港で飛行機に乗る。


これは全ての始まりだった。


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