最悪な日

ムカツク。

ムカツク。

「あ、おいっ!」

草食動物、恭弥がそう呼ぶ者たちに怯えた視線をされるのはいつものことだった。しかし恭弥に睨んでいるつもりはなく、大抵が相手の思いこみだ。それでも何故だかそれを指摘してきたディーノの発言には我慢できそうもなかった。
心の中で次第に増していく気分の悪さに、恭弥は踵を返し教室を出る。後ろから聞こえたディーノの声は当然の様に無視をして、振り向きもしなかった。


あの人を咬み殺せないことだけが気になって、わざわざ教室を調べてそこまで足を運んだ。風紀を乱した生徒以外でこんな行動を起こすのは初めてのことで、考えてみればその時点ですでに僕らしさを見失っていたのだと思う。
普段、風紀を乱す生徒がいたとしても自分で教室を調べることはまずないし、わざわざ教室に行くこともない。それなのにあの人の場合だけは違っていた。咬み殺せてない以上会えば咬み殺したいと思った。そして会えないならばこっちから会いに行けばいいとも思った。


教室に入ってまず恭弥が感じたことはディーノの雰囲気の違いだった。初めて出会った時、咬み殺そうとした時の鋭さはまるでなく、ディーノは柔らかい印象に包まれていた。
話しかけてみると、一瞬の鋭さはあったもののやはりその雰囲気はあの時に比べればかなり柔らかいものとなかっている。そして周りの視線を気にしてか、ディーノはそれを表に出そうとしなかった。
その態度の違いに恭弥が苛立ちを感じるまでそう時間は掛からなかった。そしてそれが限界
に達するのもあっという間だった。

教室を出て、恭弥はこの苛々を発散出来る対象がいないか視線を巡らせながら歩いた。そのまま応接室に戻ってもよかったが、それではこの苛々がいつおさまるか分からない。
休み時間ということもあり、教室の外に出ている生徒も多かった。渡り廊下から見える茂み、そこで風紀を乱す対象を見つけると恭弥は獲物目がけて足を早めた。


あっさりと対象を咬み殺しそれなりに気持ちをすっきりさせて応接室へ戻ると、部屋の外には表情を曇らせた委員達が何人かいた。何事? と恭弥が口にする前に彼らは事情を口にし、恭弥はそれを聞くと勢いよく扉を開けた。

「あ、」

扉を開けると中に居た人物、委員達の表情を曇らせた原因の人物が声を漏らした。それは最近よく見る眩しい金色で、その色を持つ人物はソファーに座っていた。

「なんでいるの」

その場で声を発して言う。ディーノは恭弥に視線を向けうーんと唸り、首を傾げると

「恭弥怒ってる?」

と言った。この突然のディーノの行動、発言がまた恭弥を苛立たせ、さらに先程の発言を思い出させた。さぁね、と返すと恭弥は今開けた扉を閉め、来た道を戻ろうと振り返る。
ディーノが居たせいですっきりさせた苛立ちは元通りになってしまった。またふつふつと苛立ちは沸き上がり、静かな応接室という場所も奪われてしまった。
なんて最悪な日なんだろう、思って歩いていると急に後ろから引っ張られる。

「待てって!」

ディーノの手によって止められた動き。自分の腕にあるディーノの手を見て、恭弥はその違いに目を奪われた。同じ様に見えて全然違うのだ。ディーノの手は大きくてしっかりしていて、ただ大きいだけじゃなく指もしっかりしている。
それなのにトンファーを握る自分の指は細く、力があるとは言ってもディーノに敵うほどではない。この違いのせいで勝てない、悔しい。そう考えると掴まれているのも気にくわなかった。

「離しなよ」

掴まれた腕を振り解いて走り出した。
他の人よりも自分を何倍も怒らせる人、ディーノとこれ以上近くにいたくなかった。しかも相手をしてくれる様子もない。

今日は最悪な日、恭弥は今日二度目のそれを心の中で呟いた。


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