全てに腹が立つ

ある日突然異国からの生徒がやってきた。転校、編入なのかと思えばそれはどうやら期間限定の短期留学の様なものらしかった。その生徒がイタリアから来ると知って、きっと日本語なんて片手で数えられるほどしか話せないのだろうと思っていた。
それなのに突然やって来たあの人は僕と変わらないくらい滑らかな日本語を話した。それもまるで小さいときから日本にいるのではないかと思わせる程に滑らかに、だ。

それからは少しの興味だった。偶然見かけて階段で勝手な理由を付けて咬み殺そうとした。動きにくい階段では助けを呼ぶことは出来ない上に、簡単に逃げることも出来ない。そのはずだったのに僕は勝てなかった。勝てないというよりも咬み殺せなかったのだ。
二度目は次の日に呼び止めて屋上で。まさかトンファーを弾かれるなんて思ってもいなかった。あの人はまた僕を驚かせ、そしてまた咬み殺すことは出来なかった。防ぐばかりで攻撃はしてこない。そして勝手に名前を呼んで、あまりにも苛々した僕はその場を立ち去ってしまった。
だから今日はとても機嫌が悪い。そのことを風紀委員は理解しているらしく、みんな僕に気を使って行動していた。


でもその態度こそが僕を苛つかせると気がついてはないらしい。


「ねぇ」

昼休み、ディーノの教室で上げられた呼びかけの声。ここでは普段では絶対に起こりえない状況が起こっていた。
何故なら雲雀恭弥は生徒であっても固定の教室にいることはなく、授業を受けているのかどうかすらも教師も生徒も知らないのだ。そんな恭弥が今教室にやってきて、扉の傍で誰かを呼んでいるのだった。
いつもと違うのはこの状況と、恭弥が風紀委員を連れていないことだけだった。目立つ見た目の取り巻きがいないせいか、恭弥が声を出すまでその存在に気がついていないものも少なくはなかった。

「また、来たのかよ…」

その声に反応したのはディーノだった。恭弥の姿を確認するなり動いていた手も足も口も止めた生徒達。そこで唯一動きを止めなかったのがディーノだったのだ。
もちろん恭弥の目的はディーノで、ディーノ自身もそれが分かっていた。姿を確認するなりうんざりした声で応えたのは、もう相手をしたくないと感じているからだ。

「どうせ暇なんでしょ。相手しなよ」

ディーノは今クラスの何人かに囲まれ、暇ではないが忙しい状況でもなかった。談笑を楽しんでいたというのが一番近い表現だ。

「今暇に見えるか?」
「見える」
「……」

あの並盛最強(凶)と呼ばれる恭弥と普通に会話を交わすディーノは、周りから見ればすごく異様な光景だった。物怖じせずに話せるだけでもすごいことなのだ。それなのにディーノは今恭弥に意見している。ディーノよりも周りが緊張していた。
恭弥が一言話す度にビクリと怯え、見ている癖に恭弥が目を動かすと合わないように必死に目を動かす。何もしていないのに怯えられ、それを自分の周りに立つほとんどの人間にされる。囲まれているわけではないのに、囲まれている。

恭弥はまた苛々した。

「やらないよ。俺は好きじゃないからな」
「そんなの聞いてない」
「あーうん、お前ってそうゆうやつだったな、」

恭弥と出会ってまだ数日しか経っていなかったが、ディーノはその性格を少しずつ理解していた。恭弥は自分の中のルールを基準に生きていて、きっとそれを元に行動しているのだ。それが全ての基準で校則や他人のルールはお構いなし。自分がやると言ったらやりたいタイプで、それを阻止されるのも相手にされないのも許せない。
悪く言えば我が儘か、とディーノは一人自己分析していた。

「ねぇ」
「とにかく相手はしねぇ。それとみんな怯えてるから、睨むのやめてくれるか?」

恭弥は睨んでいるわけではなかった。ただ機嫌が悪いのは確かでそれで目つきが悪く見える可能性はあった。けれどそんなのもうどうでもいいくらい、ディーノの発言は恭弥にさらなる苛立ちをもたらせた。


勝手に怯える草食動物の中で並盛の秩序になったのに、それなのになぜだかこの人にこう言われるとすごく気分が悪かった。

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