Spring Day

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あなただけ

「チーちゃん、なまえ、ほら。これやるよ」

               

リボルバーでまったりとお酒を酌み交わしていた千歳さんと私の掌に、彼がポトリと落としたのは色鮮やかなアルミのホイルで包装された小さなチョコレートだった。

               

「えっ? トミーもしかして、バレンタイン覚えてたの?」

               

意外だと驚いた表情を浮かべながら、揶揄う様に千歳さんが問いかけると、彼はため息混じりに「失礼だな」とこぼし、私の隣の席へと腰を下ろした。

               

「俺だって、日頃世話んなってる仲間に感謝を伝える日ぐらい覚えてるんだ」

               

「へぇ、偉いじゃん」

               

「フフッ、ありがとうございます。トミザワさん」

               

普段通り仲良さげな2人の会話につい笑みをこぼしながら感謝を述べると、私の言葉に彼は「いいってことよ」と、満悦そうに目を細める。

               

「実は私もみんなに用意してるんだよね」

               

「おっ、意外だな?」

               

さっきの仕返しだと言わんばかりに、彼がそう千歳さんへと言い放つと、千歳さんは「そういうこと言うトミーは無しだから」と眉間に皺を寄せ、「2階にあるから取ってくる!」と階段を駆け上がって行った。

               

(私も何か用意するべきだったかな……)

               

日々の感謝を伝えたいのは私も同じだ。

千歳さんの背中を見送って、彼から貰ったチョコレートを指先でコロコロと転がしながらそんなことをひとり考えていると、彼がそっと私の手を包み込んで翻した。

               

「え?」

               

突然の彼の行動に目を丸めた私の手には、シンプルなラッピングペーパーに包まれた一輪の薔薇が添えられていた。

               

「チーちゃんにはバレない様にすんだぜ? 拗ねられたら困るからな」

               

不適に、悪戯そうに、笑みを浮かべた彼に意表を突かれながらも、静かに手の中の薔薇に目線を落とせば、ラッピングペーパーの中に『For my Valentine.』と綴られたメッセージカードがついているのが目に止まった。

ドキリと心臓が大きく跳ねる。彼にとって私が『大切な人』という事実がこの上なく嬉しい。 彼の温もりが伝わるこの手もジワリと熱を帯びていく。きっと今の私の顔はこの薔薇の様に真っ赤に染まっているかもしれない。

               

「……トミザワさんってちょっとクサいところありますよね」

               

「お前までチーちゃんみたいなこと言うんじゃねえって」

               

赤くなっているであろう今の顔を見られるのは何だか恥ずかしくて、僅かに視線を動かして彼の顔を覗く。

私の目に映る満足気に口角を上げた彼の表情は、私の心を掴んでこれからも離すことはないだろう。


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