そして、降り注ぐ太陽の光を窓辺で浴びて伸びをひとつ。
ヨシっと洗面所へ向かい、顔を洗って歯を磨いて、コーヒーを2杯用意する。
これが私の日課。
味のこだわりなんてない私は、もっぱらインスタントコーヒーで充分だけど、私の分とは別にコーヒーメーカーで1杯淹れるのは、モカが好みだという彼のため。
「おはよう、天佑」
「……おはよ〜」
パタリパタリとサーバーに溜まっていくコーヒーを眺めていると、起きたばかりの彼は長い前髪を顔に垂らして、残った眠気をふわぁっとあくびで吐き出しながらキッチンへと顔を出した。
「もうすぐコーヒーできるから、ちょっと待ってて」
「ん、」
夢現な返事をしてダイニングチェアに片膝を立てて座った彼の前に、コーヒーカップをことりと置くと「ありがと」と柔らかい声が伸びた。
彼のモカを淹れている間に飲み始めていた残り少ないインスタントコーヒーを片手に、向かいの席へ腰掛ける。
「やっぱりモカの香りはいいねぇ」と、コーヒーカップを鼻先まで持ち上げて、スンっと匂いを嗅いだ彼が口角を上げる。
ご機嫌な面持ちの彼に「それは、良かった」と、こちらも笑みを浮かべ、コーヒーをひと口喉へ流す。
満悦なため息をこぼした彼が、いざモカを飲もうとした時、顔にかかった髪をゆっくりとかき上げた。
けれど、かき上げた髪が指の隙間からハラハラとこぼれ落ち、毛先がまぶたに触れてくすぐったかったのか、僅かに眉間に皺を刻みながらモカを口にする。
ゴクリと音を立てながら喉仏が上下に揺れ、カップを下ろした彼の唇からは芳醇な香りの吐息がこぼれた。
その動作ひとつひとつに、つい目を奪われてしまう。
セットも何もされていない髪の隙間から覗く瞳と、指輪ひとつ着けていない素の骨張った手。それに、ほんの少し気怠げながらも、キュッと上向く口角も。
全てが入り交じった今の彼は、私が見惚れ、そして改めて好意を抱くのに充分な魅力があった。
私の熱い視線に気づいた彼は、怪訝そうな表情を浮かべて口を開く。「何見てんの?」
「うん? 格好いいなぁ、って思って見てたの」
「フフッ、好きだよ。天佑」
恥ずかしくともなんともない。なにせ率直な想いだから。
ひとり軽く微笑み、手元のコーヒーを呷っていると、彼は「ふぅん?」と軽く眉を上げ、そのままゴクリゴクリとモカを飲み干した。
それだけしか反応がないなんて珍しいなぁ、いつもならもう少し揶揄ってきたりするのになぁ、なんて、僅かな違和感を抱きながら彼を盗み見るようにチラリと覗いてみる。
すると彼はおもむろに席を立ち、私の前でほんの少しだけ屈んだと思えば、
「──俺も」
と、額にチュッと触れるだけのキスを落とした。
呆気に取られている私の手からするりとカップを抜き取り、「洗っとくよ」とキッチンへ立った彼に視線を動かすと、カップを洗いながらフッと柔らかな笑みを浮かべていた。
そんな彼につられてか、はたまた彼からの好意に悦びを感じてか、ひとりエヘヘッと笑みをこぼしていると「うわ〜何1人で笑ってんの〜?」と揶揄いの声が飛んできた。
「天佑のせいでしょ?」と小さな嫌味を投げかけてみれば、ハハハと笑い声が返ってくる。
2人して笑い合うことのできるこの時間を、今日から新しく日課に加えようか。