Spring Day

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品田に告白する話

私には好きな人が居る。

バイト先、錦栄バッティングセンターに稀に来る『品田辰雄』だ。 最初はふらっと来てはホームランを打ち、商品券を貰っている人というだけの印象だったが、何度か受付で他愛のない話をしてからというもの、今となってはプライベートでも食事に行く仲だ。

今日も私のバイト終わりに居酒屋で飲むことになっていた。

            

なまえちゃん、おつかれ!」

            

タイムカードを切り、約束の居酒屋に向かおうとした時に彼から声がかかった。

            

「あれ?品田さん。どうしたんですか?あっ、バッティングですか?」

            

これからの食事代を稼ぐべく、商品券目当てで来たのかと思い問いかける。

            

なまえちゃんを迎えに来たんだけど……いらなかった?」

            

思ってもいなかった返答で動揺していまう。

            

「えっ!?わざわざありがとうございます!えっと、1ゲームしていきますか!?今、空いてますよ!」

            

動揺とわざわざ迎えに来てくれた申し訳なさと嬉しさから、そんなことを言った。

            

「いやぁ、また商品券目当てかって受付のおばちゃんに小言を言われるからさ。今日はやめとくよ!」

            

(本当に私を迎えに来てくれただけなんだ……私のために……)

            

きっと品田さんにとって私は、ただの飲み友達ぐらいにしか思われてないと思うが、そんなことをされると、もしかしたら自分と同じ気持ちなんじゃ……と勘違いしてしまいそうになる。

            

「じゃ、じゃあ、行きましょうか」

            

そんな浮ついた心を押し隠すように居酒屋へ行くことを促し、目的地へと向かった。

            

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「品田さんって恋人は居ないんですか?」

            

最初のビールから始まり、もう何杯飲んだだろうか。お互いに酔ってきていた。

            

「え?恋人?居るわけないじゃん!居たら風俗ライターなんてやってないよ」

            

「じゃあ恋人が欲しいとも思わないんですか?品田さんぐらいの歳だったら、もう結婚して子供いてもおかしくないですよね」

            

「うーん、こんな俺でもいいって言ってくれる人さえ居れば、すぐにでも結婚しちゃうよ」

            

「へぇ……」

「……じゃあ、私はダメですか?」

            

「えっ?あぁ、はいはい。酔っ払ってるのね」

            

彼は私が酔って言った冗談だと思っているみたいだ。たしかに、私は酔ってはいたがこれは冗談ではなかった。いつかは言いたいと思っていたことをお酒の力を借りて言ったのだ。

            

「酔ってません!!」

「もちろん、すぐに結婚なんて言いません。結婚を前提にとも言いません。ただ、恋人候補としてでも意識してくれますか?」

            

「い、いやぁ……」

            

私の唐突な発言に困っているのだろうか?それともどう断ろうか返答に困っているのだろうか? どちらにせよ言ってしまったことは仕方がない。振られても良いように覚悟を決めるしかない。

            

「嫌ですか?」

            

「えっ!?いやいやいや!!そういうわけじゃないけど、さ……」

「俺なんて37のおっさんだよ?風俗も行ってるし、借金だってあるしさ。なまえちゃんが思ってる以上に駄目な男だよ。だから、もっと……」

            

『もっと良い人が見つかるって』 優しさからなのだろう。彼はそんな言葉を言いかけ、ハハハと目を逸らした。 優しさからだとしても自分を卑下する彼の姿に、私は少し怒りを覚えてしまった。

            

「前に話してくれたじゃないですか。品田さん、毎日欠かさずトレーニングしてるって。毎日、毎日夢を諦めずにトレーニングしてるって。そんな人が駄目な男なわけないじゃないですか!それに私には品田さん以外考えられません!!」

            

以前食事をした時にあまり自分の過去を話さない彼が、お酒に酔ってこぼした話だった。

            

「……選手辞めてから絡まれた時の喧嘩以外で初めて役に立ったかも。トレーニング」

            

私の言葉にハッとした後、彼はどこかもの哀しげな面持ちでヘヘッと頭を掻きながらそう言った。

            

「選手……?」

            

「いや、気にしないで!いずれちゃんと話すから」

            

いつも通りの明るい表情で言ったと思えば、今度は真剣な顔で私をジッと見つめた。

            

「本当に俺でいいの?」

            

「品田さん"が"良いんです」

「でも、品田さんが私のことをただの飲み友達ぐらいにしか思ってないなら無理せず、今返事をしなくても大丈夫ですから」

            

「ただの飲み友達だったら、わざわざ今日みたいに迎えに行かないって!」

            

「そ、それって……」

            

「俺みたいなやつに好意を向けられても困るだろうと思って……好きだよ。なまえちゃんのこと」

            

思ってもみなかった返答と未だかつて無い喜びで、私の胸は飛び上がってしまう。

            

「品田さん、もう今日はお開きにしませんか?」

            

「えっ?まだそんなに時間経ってないけど……」

            

「フフッ、品田さんと手を繋いで歩きたくなりました。いいですか?」

            

「も、もちろん!」

            

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先程まで温かい室内に居たからか、外の空気は頬を刺すほど冷たく感じる。

            

「品田さん。さっき、恋人居たら風俗ライターなんてやってない。って言ってましたけど、辞めなくて良いですからね?」

            

「えっ?なんで?嫌じゃないの?」

            

「だって品田さんの大事な仕事じゃないですか。あ、でもプライベートでは……あんまり行かないでくださいね?」

            

「あんまりって!行くわけないじゃん!大事な恋人ができたのに……」

            

そんなことを面と向かって言ってくれる彼の優しさ好きだ。

            

「私、品田さんが夢を叶えるの応援してますからね」

            

「ありがとう……必ず話すから。俺の追い続けてる夢のこと」

            

フゥと一息ついた彼はパッと私の手を離し、目の前に立ち塞がった。

            

「よろしくお願いします!」

            

街の賑わいをものともしない声で、勢いよくお辞儀をする彼に呆気を取られてしまう。 そんな私を見て、やってしまったと言わんばかりの表情で焦る彼が面白い。

            

「はい、よろしくお願いします」

            

頬を刺すほど冷たいと思っていた、冬の空気はいつの間にか暖かくなったのだろうか?頬だけではなく、彼と繋いだ右手さえも温かくなっていた。

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