たまたま飲みに来ていた春日さんも一緒についてきてくれることになり、2人で買い出しに行くことになったが、週末の夜ということもあって人が混みあっている。
その人混みの中で春日さんとはぐれないように、必死に小走りでついて行く。
春日さんは何度も『大丈夫か?』と振り返ってくれるが、あまり気を使わせたくない。
歩幅が違うこともあって引き離される分の距離は、春日さんが見ていない間に小走りで埋める。
(また距離が開いてきた。そろそろ春日さんが振り返るかもしれない)
と思ったが、いくら小走りでもさすがに何度も繰り返していると体力が尽きてくる。
じんわりと汗をかき、もう少し頑張れ!と足元を見ながら自分を鼓舞しながら走ると、人にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
謝るためにパッと顔を上げると、目の前には春日さんが居た。
こちらを心配して振り返り立ち止まる春日さんにぶつかってしまったようだった。
(しまった!バレた!)
「歩くの早かっただろ?大丈夫……じゃないな?」
春日さんは、額に汗を滲ませ息を切らす私を見てそう言った。
「いえ、私が歩くの遅いからで……春日さんは悪くないです!」
片眉を下げ、困ったような表情をする春日さんを見て、あぁ……気を使わせてしまったなと罪悪感を抱いていると、
「なまえちゃん。手ぇ出してくれ」
言われるがまま右手を差し出すと春日さんの大きな手で包み込まれた。
「これならはぐれないし、歩く速度も合わせられるだろ?」
(春日さんの左手に私の右手が握られてるってことは……手を繋いでるってこと!?)
唐突な出来事に理解が追いつかず、動揺する私を見て春日さんはフッと笑った。
「じゃあ、行くか!」
「春日さん!?て、手繋いだまま行くんですか!?」
いくら人混みの中で人目につきにくいとしても、もし知り合いに見られたら付き合ってると勘違いされかねない。そんなことになってしまえばきっと春日さんに迷惑をかけてしまう。
「ん?嫌だったか?いい案だと思ったんだけどよ」
春日さんはそう少し落ち込んだように見せるが、そんな雰囲気に押されてる場合ではない。
「でもこれだと!」
「あー、恋人みたいだな?」
ヘヘッと満更でもない笑顔で言う春日さんを見て、1人で焦るのが馬鹿らしくなってしまった。
一体どういうつもりでそんなことを言っているのだろうか?本当に油断出来ない人だ。
『恋人みたい』ということを理解した上での行動なら、ここは春日さんに甘えよう。そう思い、手を繋いだまま歩き出した。
しかし、人混みを抜けても春日さんは手を離してくれる気配がなく、手を繋いだままサバイバーまで帰り、なにか勘違いさせてしまったマスターの誤解を解くのに苦労したのはもう少し先の話だ。