Spring Day

Spring Day

阿久津からイヤーカフを貰う話

「阿久津さんの"それ"はどこで手に入りますか?」

               

「あ……?」

               

唐突な私の問いかけに、彼は眉根を寄せて低い声で一言返す。

               

(わぁ、面倒くさそう)

               

一瞬、ビリッと痺れた嫌な空気を感じ取っても、彼の耳に着いた2つのアクセサリーに一目惚れをしてしまったのだから仕方がない。

               

「初めて見た時から一目惚れしちゃったんです!」

「でも、同じのがなかなか見つからなくて」

               

神室町内にあるアクセサリー販売店を殆ど見て回った。にも関わらず、見つからない。

似たデザインのもので我慢しようと、買って着けてみても、やはり彼のものとはどこか違う。

               

「ほら、似たようなの着けてるんですけど、やっぱりなんか違くて」

               

髪を耳にかけ、自身の耳に着けたアクセサリーを見せると、彼はジッと見つめたあと、ため息混じりに言った。「そんなの訊いてどうすんだ」

               

「え? それは勿論、同じの買って着けます!」

「ね、阿久津さん、お願い! 教えてくれませんか?」

               

彼の傍にすり寄って、両手を合わせ眉を下げ、潤んだ瞳で上目遣い──

渾身の"おねだり"を披露してみせる。

               

「なんでお前とお揃いにしなきゃなんねえんだ」

               

「えっ、お揃い嫌なんですか?」

               

そうか、彼がお揃いを嫌がる可能性を考えていなかった。確かに彼は自分自身のアイデンティティを大切にしていそうだ。それは彼の派手な格好が物語っている。

そうとなれば、きっと彼は否が応でも教えてくれないかもしれない。

彼が次に口を開いた時の言葉は"案の定"と言えるものだった。「お前が気安く買えるようなもんじゃねんだよ」

               

「そ、そうですよね」

(あぁ、やっぱり……)

               

予想通りの返答にひとり肩を落としていると、不意に伸びてきた彼のカサついた指先が私の耳に触れた。

唐突な彼の行動と、僅かに耳を刺激する感覚にビクリと肩を震わせたあと、見開いた目で彼をジッと見つめ「あ、阿久津さん?」と、ただ名前を呼ぶことしかできない。

               

一体彼は何をしているのだろうか? 無意識にドキドキと高鳴る鼓動と、その影響で酸素が行き渡らずに上手く回らなくなった頭では彼の意図を理解できなかった。

               

彼は、目を瞬かせる私のイヤーカフを外したと思えば、今度は自身のイヤーカフを外す。

そして、私の落ちてきていた髪を耳にかけながら、ほんのりと熱の帯びた金属が耳に着けられた。「そんなに欲しいんなら、やるよ」

               

(これは……阿久津さんのイヤーカフ?)

               

半ば呆れ気味な様子で眉を上げた彼の手が、スルリと離れていく。

               

「え、いいんですか……?」

               

気安く買えるようなものじゃないってことは、とてつもなく高価なのでは? という疑問と急に押し寄せた申し訳なさに戸惑っていると、彼は「いらねぇなら返せ」と不服そうに顔を顰めながら、再び私に手を伸ばした。

               

「い、いります! いらないわけないです!」

               

取られてたまるかと言わんばかりに、手で耳を覆ってみれば、彼はフッと目を細めた。

               

そして、(あれ、そういえば私が着けていたイヤーカフはどうしたっけ?)と気がついたのは家に帰ってからのことだった。

               

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その日の阿久津は至極満悦そうな様子で、RKアジトのVIPルームで1人、酒を呷っていた。

               

そんな阿久津の姿に違和感を覚えた1人の部下が「あれ?」と耳に着いたアクセサリーを指差し問いかけた。

               

「阿久津さん、アクセ変えたんですか?」

               

「──まぁな」

「お前らじゃ絶対手に入んねぇやつだ」

               

そう応えながら自身の耳に着いたイヤーカフをそっと撫で、愉悦に浸った笑みを浮かべたばかりだった。

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