例えばこの世界が平和だったら。
人々はみんな平等で、正義も悪もなくて、みんな幸せで、戦争がない世界だったら。なんて素敵なんだろう。人を殺さなくていい世界。誰かが血を流すことのない世界。血を血で洗わずに済む世界。
少なくとも、戦前で戦う者達はそう考えた事があるだろう。だがそれは所詮夢。現実はそう甘くはなかった。

この世界は平和だと、政治者は言い張る。だがそれは犠牲の元成り立ったもので。
人々はみんな平等などでないし、正義もあれば悪もある。みんなが幸せなどではなく、この世は戦争だらけだ。でもそれは遠い国のお話。彼らは自分たちの国でそんな事はありえないと考えた。
巨大な軍事組織に莫大な金を持ち得た彼らの国は、何百年の歴史の中で敵国を潰して回り、そしてーー侵攻する国はなくなった。今も、彼らの国は敵国から侵攻を受ける事なく存在している。だがひとつ、大きな欠点を抱えていた。それが、海賊たちだ。海に面したこの国は、海賊たちのアジトとして適役だった。軍人達は、海賊の侵攻を防ぎながらも、誰一人殺めることはしなかった。
それが、一転する。
突如として上から出された、海賊殲滅命令。海賊だけではなく、海賊に関わった者達全てを斬り捨てろという命令。捕まえる必要はない。ただ、命を奪え。
軍と海賊たちの血を血で洗う争いが始まったのだった。











血が流れ、涙が流れ、やがて朽ち果て死んでいく。生きるために戦った。腕を振るって奮って震って、自分を守るために剣を突き立てる。
初めて人を斬った感触は今も手に残っている。
初めて人を殺した感覚は多分一生忘れることもない。
私はただひたすら戦った。戦場を舞う。鮮血が舞う。涙が舞う。命が舞う。
あの頃の笑っていた光景が嘘のように消えていく。彼らも、私と同じ様に、表情が死んでいった。ゆっくりだけど、確実に。

今日は何人殺した?
わからない、判らない解らない。
施設に戻って、みんなと別れてから自然とその場に蹲った。
包帯で巻かれた腕で両肩を抱きしめる。パタパタと、私の目から涙が溢れ出た。

「ふっ……ぅう……」

これが、軍人として当たり前なのだ。
私達は平和ボケしてしまっていたのだ。
軍人は戦うもの。だからあんなに沢山訓練をしてきたのに。なのにーー

「もう…、嫌ですよ…」

私の独り言は誰にも聞かれることなく消えていった。

「ダイアナ」

名前を呼ばれてはっとした。そうだ、ここは廊下…道の真ん中だ。急いで涙を拭って立ち上がる。振り返れば、彼らがいた。包帯だらけの姿で、顔に疲れの表情を見せながら。

「…、どうしたんですか?」

なるべく明るく問いかける。空元気。それでも、彼らの表情は少しだけ綻んだ。
だが、それも一瞬。すぐに暗い表情に変わる。

「!」

気がつけば二人に抱きしめられていた。えっ、と混乱する私を置いて、高継くんが小さな声で、言葉を絞り出した。その言葉は、今私が一番聞きたくないものだった。だから、答える私の声も震えていた。

「無理すんな」
「む、りなんて…してないですよ」

無理やり笑って、高継くんを安心させようとする。うまく笑えてるかな?いや…笑えていない。だって、不意に見た伽北くんの瞳に写った私は、涙を流していたから。留めていたものが溢れ出すかのように涙がこぼれた。拭っても拭っても、それは止まることを知らず。
伽北くんが、包帯が巻かれた腕で私を抱きしめた。その上から、高継くんが抱きしめてくる。

ーー嗚呼、彼らはこんなにも冷たかっただろうか

冷え切ったお互いの体を温めるようにきつく、強く。

「お前達は、絶対死なせねぇ」
「俺が、お前らを死んでも守るから」

決意の色に満ちた二人の瞳。映る私はただ涙を流す。私も、私だって…

「貴方達をーー失いたくない」

失いたくない。だから戦おう。彼らを守るために。あの日の笑顔を取り戻すために。剣を振るおう。
小さな、だけど大きな決意とともに、二人の腕を握りしめた。


(それはまるで依存だった)

そうでもしないと、私達は壊れそうだったんだ。



血戦戦争1




△ |


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -