「いいねぇ、いいねぇ。良い具合にことが進んでいる」

男が楽しげに手を叩いて笑った。暗い部屋にある多くの画面には大勢の軍と戦う海賊達、そして拷問部屋で鉢合わせ戦う女二人の姿が映し出されていた。

「計画が終われば、あの男はどうする」
「本気で自分の階級上がると思ってるんだ、馬鹿だよな」
「ハハッ、そいつはおめでたい頭だな」

後ろに控えていた二人の声に、男は笑った。愉快だ。愉快だった。何もかもが自分の手の上で踊ることが。
座っていた椅子から立ち上がった。ギイと耳障りな音が響く。
彼は笑った。これから駒たちがどう動くか、それが楽しみで仕方がない。全ては彼らの思惑通り、全ては彼らの手の内なのだ。
ふとした時には、その部屋から彼らの姿は消えていた。
残されたのは、息絶えた制服を着た数名の男達だけだった。

△▼△▼△▼△▼△

目の前に迫った戦いに気づかないうちに震えていたらしい。持っていた剣がカタカタと鳴っていた。ぐっと力を入れて握り直す。緑の髪が風に揺られて視界を阻めた。それでもはっきりと、あの金色だけは見える。キラキラと輝く金色は、強い意志を持つ赤い瞳とともにそこにいた。
本当は誰よりも優しくて船長なんて似合わないくせに。
悠然と鮫と鯨に挟まれた弱虫な鯱。
船長として、敵として、海賊として彼はそこに立っていた。
いつかはこんな日が来ると思っていた。上司であるエレオノーレを亡くした瞬間から死へのカウントダウンは始まっていたのだ。せめて、最期は奴の手で。そして奴の最期は自分の手で。

ーージャック…

気がつけば手の震えは、止まっていた。

「落ち着いたみたいだな」
「レイフルさん…」

ふとかけられた声に我に返った。いつの間にかエストハイムの隣にはあの男と同じ金の髪を持ったレイフルが立っていた。その隣には緊張した面持ちの若羽とコトユがいる。二人共獲物をきつく握りしめてただ海賊たちを睨みつけていた。まだまだ若い二人だ。教官であるレイフルが付いていたとしても不安は拭えないだろう。かくいうエストハイムもそうだ。

「体の震えが止まったからといって緊張が解けたわけではありません。今もーー」
「過度な緊張じゃなきゃ問題ねぇよ」
「そうそう、この緊張感も楽しまなきゃな!」

そう笑いながらやってきたのは相良だ。いつも前向きポジティブな男は豪快に笑いながらエストハイムの肩を叩いた。なんでも豪快な男だ。叩く力も例に及ばず豪快で痛みに顔を歪める。それすらも気にしていないようだったが。

「俺達がついてんだ。心配すんな」
「そうそう、何処かの誰かさんみたいにいきなりいなくなったりしないからね」

クスクスと笑いながらやってきた久式が被っている帽子を軽く上げた。その何処かの誰かさんが先日から行方不明の男であることをここにいる全員が瞬時に察した。彼がどこに行ったのか何故消えたのかは未だわかっていない。
久式と相良はそのままお気楽に笑いながら前線近くへと歩いていってしまった。

「こんな状況なのに笑うってさすがとしか言いようがないな…」
「ほんと…。でもちょっとは緊張解れたかも」

苦笑し、顔を見合わせるコトユと若羽はその場で軽く飛び跳ねた。体が先程よりも軽い。緊張が解れた証拠だ。

「アト兄様もレフ兄さんも見てるんだ。頑張らないとね。大丈夫、私なら大丈夫よ」

独り言とも取れる言葉を呟いて、コトユは息を整えた。それを横で聞いていた若羽もよし、とちいさく息を吐く。
緊張が解れ集中し始めた二人にレイフルは安心したように胸を撫で下ろした。
今この軍勢にははっきりとした指導者はいない。さらには勝利の要と言ってもいい狙撃部隊だって少ない。軍で一位二位を争う腕の狙撃手達は戦闘ができない状態だ。
数は圧倒的に有利。だが、甘く見ていては噛み殺されるだろう。

「だが、勝つしかないんだ」

そうしなければ死ぬだけなのだから。
これは生死をかけた戦い。戦争なのだ。
流すのは自分の血か、それとも相手の血か。血を血で洗う戦争。

「血戦戦争、ってか」

呟いたレイフルの言葉は海賊たちの叫び声にかき消された。




△▼△▼△▼△▼△▼△

「かなりの人数だ」

目の前に佇む軍人を目に、海鈴が隻眼を細めて言った。その言葉にははっ、と蒼刃は笑う。

「確かに予想以上の人数だな」
「笑ってる場合じゃないと思いますー」

蒼刃の笑いにジャックが口を尖らせた。こちらは精鋭揃いといえど数はしれている。殆どは海戦の人手に回したのだ。
ジャックは軍人の中見覚えのある緑の髪を見つけた。それは彼が惚れた唯一の男。できるならば、彼とは戦いたくなかった。だがそんなこと、言ってる場合じゃない。だってジャックは船長なのだから。いち海賊の船長として、やらなければならない事があるのだから。

「数は圧倒的に不利ーーだが」

海鈴が吸っていたタバコを地面に落とした。がっとそれを踏みつける。真っ青な瞳を敵に向けた。好戦的でもあって、仲間皆を安心させる雰囲気。それはまるで獲物を一気に狩ろうとし、なおかつ仲間を気にする鯨のよう。

「不利なら不利なほど、楽しくなってくるもんだ」

ニヤリと笑った鯨に賛同するかのように鮫が牙を剥き出しにする。鯱が襲いかかる準備に入る。

「いくぜ、野朗共」

海賊達の雄叫びが木霊した。



(血戦戦争)

血戦戦争13




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