何年ーーいや何十年この施設にいるだろうか。もはやここは我が家と言っても過言ではないだろう。
日々成長していく軍人達を見守るのが私の日課となっていた。汗を流して笑って泣いて、そうやって人としても軍人としても成長し、今の地位に上り詰めた者たちは少なくない。

今日は久々の非番だった。
特にこれといった趣味など持ち合わせていない私はと図書室を訪れていた。たくさんの本が並べられているここならば、暇を持て余すことも無いだろう。
暫く読書に夢中になっていたときだ。後ろから声がかかった。

「あらあら、こんにちは」

クスクスと笑いながら話しかけてきたのはメイドのような服を着たオレンジ髪の女性ーーたしか伊予様専属のメイド、リムパケだ。

「ごきげんよう。随分と読書家ですわね」

リムパケの手には厚い本が4冊も積まれていた。それをいともかんたんに持ち上げている彼女の腕力はやはり、この軍の施設で自然と鍛えられたものなのだろう。
いいえ、と彼女が首を振った。

「私のではなくて、伊予りんのなのよ。伊予りんってば非番なのにお仕事ばっかりしてるんだもの。気晴らしに読書でもと思って」
「そうでしたの。お優しいのねーーあら?」

本と本との隙間に何か古い紙が挟まれているのに気がついた。
失礼と断りを入れて間に挟まった紙を抜き取る。

「あらあら? 何か挟まっていたの?」
「ええ……、ふふ随分と懐かしいものが出てきましたわね」

数十年も昔のその紙は手紙だった。覚えている。今でも鮮明に思い出せる。
彼が私にくれた手紙だ。正確には私にくれる予定だった手紙だ。
この手紙を読んですぐ、恥ずかしさからか彼はこの手紙を隠してしまったのだ。
今思えば、彼が私のーーいや、今はその話はいいだろう。どうであれ彼が私を裏切ったことに変わりはないのだから。

「それは?」
「初恋の思い出…とでも言うものですわね」
「初恋の思い出…? うふふ…ぜひとも今度深く聞きたいものだわ」

クスクスと微笑みながら去っていった彼女につられ、私も小さく笑う。

「初恋の思い出なんて」

我ながら馬鹿げたことを言ったものだ。
けれど、確かにあれは恋だったのだろう。この手紙をもらった瞬間に起こった初めての恋。

「初恋は叶わないって本当でしたのね」

古ぼけた手紙を胸に私は図書室を後にするのだった。


初恋の思い出






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