重い衝撃が、俺の頭を直撃した。途端、脳が揺れる。頭から流れてきた生暖かいそれに、嗚呼血が出たんだなって頭の隅で思った。体中ボロボロで、身じろぐことすら出来ない。足は、折られた。たぶん。もう感覚すらない。口の中は錆び付いた鉄の味が広がってるし、殴られた頬はきっと腫れてる。あぁ、こんなの、葵紀には見せられないな。彼女にいらない心配はかけたくない。
血で霞む視界に、こちらを絶望的な表情で伺う船員達の姿が入った。口々に俺の名前を呼んで、泣いて、抵抗して。大丈夫だ、の一言くらい掛けてやりたかったが、それすら許されないほど、俺の体は限界だった。

「…!!?ぐぁああぁっ!!!」
「おっ、やっと声出た」

楽しそうに笑う奴ら。悪態をつきたくも、断続的に十万ボルトを浴びせられて叫び声しか出ない。
痛い、熱い。痺れる体にまた、十万ボルトを浴びせられる。喉から血が出るほどに叫んだ。意識が遠のいていく。嗚呼、どうしてこうなったんだっけ、なんて現実逃避し始める頭。

「船長さん、もっと鳴いてくれよ」
「じゃねぇと、部下達が痛い目見るぜ?」

男の言葉で一気に我に返った。見れば、船員たちに十万ボルトを繰り出そうとしている電気タイプの男。咄嗟に体を動かそうとした。が、それは柱と俺の体に繋がれた縄によって妨げられる。代わりに声を出した。

「部下には手ぇ出すんじゃねぇ!!!」
「船長!もうやめてくだせぇ!俺たちのことは気にせずーー」
「うるせぇ!てめぇらは黙ってろッッ!!」

睨みと共に部下に言ってやれば、肩を揺らしてから黙りこくる。そうだ、それでいい。船と乗組員を守るのが船長である俺の役目だ。
そんな様子を見て、男が大きな声を上げて笑った。

「泣かせるねぇ」
「だが、それも何時まで続くかな?」
「!!?ちょっ、何しやがるッ!」

突然上着を脱がせ始めた男に戸惑いの声をあげる。かと思えば、シャツの下に手を差し入れてきて、腹の辺りを男の冷たい手が行き来する。気持ち悪い。ギリッと奥歯を噛みしめた時、その男が俺の首もとに顔を埋めてきた。ここまでこられたらいくら俺でも我慢は出来ない。大声で制止しようとしたとき、

「ひッ……!」

首筋を舐められた。背筋が粟立つのがわかった。気持ち悪い、気持ち悪い。男の舌は俺の首筋、鎖骨、喉仏を行き交う。手は変わらず腹を撫でている。くそっ、一体何なんだ。気持ちが悪い。
そう思った時だった。

ビリッッ

「え……、………ぐぁぁああああああぁああッッ!!!!」

微かに聞こえた電子音。そこから突如訪れた激痛が俺の体を走り回る。男が雷の牙で俺の首筋に噛みつき、手から電磁波をだし、もう一人の男が十万ボルトを浴びせてきたのだ。雷の牙によって、体内にまで電気が走り回る。攻撃が止んだとき、もうとっくに俺の体は限界を超えていた。

「あ…………ぐ………はぁっ」

まだビリビリと体に電気が残っている。もう限界だ。長い髪が視界を遮る。顔を上げることすら出来ない。周りの音すら聞こえてこない。まずい、意識が遠のく。だめだ、俺が今ここで倒れたら…誰があいつらを守ってやるんだ。思うも、だんだんと視界が暗くなっていく。完全に視界がたたれる前、俺の耳に聞き慣れた声が届いた。

「蒼刃、後は任せろ」

嗚呼、あの人だ。

「よろ…………しく………頼みま…………」

か細い声で答えてから、俺の意識は暗闇に沈んでいった。




(後は任せます)

よく頑張ったな、ゆっくり休め



蒼刃ボロボロ話






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