あいつは何故か俺に付き纏う。
どこからとも無くひょっこり現れたかと思えばお決まりのセリフを言ってくるのだ。
何であいつかこんなにも俺につきまとうのか。考えたところで検討も付かない。俺はあいつにとって何の足しにもならない奴なのに。
それなのにあいつは今日もやってくる。ひょっこりと現れてにやりと人相の悪い笑みを浮かべて言うお決まりのセリフは、そう。

「藜(あかざ)、殺ろうぜ」





俺はただの一般人だ。一般人、というのは語弊があるかな。トレーナーがアイドルをやっているからその付き添いみたいな感じで何度かコンテストにも出ている。モデルってわけではないけどそれなりに名前は通っているーーらしい。そういうのに全く興味がないため分からないが。基本俺は何にも興味も示さない。トレーナーに心配されるレベルだ。
そんな俺のどこが良いのか。
少し前から付き纏ってくる男がいる。公(おおやけ)に名前も言えないそいつは、首に賞金が掛かっている(それもかなりの額らしい)男、リュウガ。強い奴と戦うことが好きらしいが、それがなんで俺につきまとうのか。よくわからん。

「藜ー、藜、あーかーざーくーん」
「うるせぇな、なんだよ」
「だから殺ろうってば」
「殺らない」
「チッ、つまんねぇな」

なんで文句言われなきゃならないんだ。
というか、俺なんかがお前に勝てるわけがない。相性的にも実力的にも。

「お前はなんでそんなに俺に付き纏うんだ」
「あー?んなの俺様がテメーと殺りあいたいだけだっつーの」
「なんで俺なんだ」
「……目」

答えられるとは思わなかった。うるせぇと悪態をつけられるかと思っていた。
目、という単語には?と首を傾げる。

「テメーの目、他のやつと違うんだよ」
「はぁ?」
「他の奴らは俺を見たらすぐに目が恐怖に揺らぐ。でもテメーはどうだ?恐怖に揺らぐどころか真っ直ぐこっち見てくるじゃねぇか。それが面白くて仕方ねぇんだよ。だからテメーのその目が恐怖に揺らぐところが見たい。俺様の力を思い知った時のテメーの目が見てみたいんだよ」
「訳わからん」

犯罪者はどいつもこいつもこんな考えなのだろうか。いや、それともこいつだけなのか。
馬鹿馬鹿しいとため息をついた。
指名手配犯と一緒にいる俺もどうかしているのかもしれない。こんなのトレーナーにも言えないことだ。きっと言えば心配かけてしまう。
俺は決してお前の誘いに乗ってやらない。
だって、俺がお前が思っているよりも弱かったらお前はすぐに俺に興味をなくすだろう。それが嫌なんだ、って…

「馬鹿みてぇ」
「あぁ?」

なんだよこの考え。
まるでこいつに付き纏われてるのが、こいつに殺し合いに誘われてるのが嬉しいみたいな考え。あり得ねぇ。普通に考えてあり得ねぇ。
全く本当にどうしてしまったんだ俺は。
なんだかよく分からないが、何にも興味を持たなかった俺が何故かあの男ーーリュウガのことだけは気になるのだった。
そんなの信じたくないけど。
そうして今日も明日も俺はお決まりの言葉を放つんだ。

「お前とは殺らないよ」



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何故かあの男が気になった。
いつもの様に遊びに誘っても断るあの野郎なんか放っておけばいいのに、俺は何故か本当に何故か藜が気になった。
きっかけは目だった。
俺を見た時、俺の殺気に当てられた時、大抵のやつは恐怖に目が揺らいでいた。でも藜は違った。真っ直ぐに俺を見てきたのだ。その目が映したのは恐怖でもなんでもない。だからと言って歓喜だとか興奮とかそういうのも無い。
ただ、 “興味なさげに”俺を見ていたのだ。
それからその目に俺をうつしてやりたい思うようになった。
恐怖でも歓喜でも興奮でもなんでもいい。興味ない、何てもの以外であれば何でも良かった。

「俺様もやきが回ったか」

正直馬鹿だなと思う。なんたってあんな奴って。
でも仕方ねぇんだ。気になっちまうのは気になっちまうんだから。

「いつか必ず、テメーを後悔させてやる」

俺のこと“興味なさげに”見たことを。
そうして俺は今日もお決まりのセリフをあいつに言うのだ。

「藜、殺ろうぜ」






(すれ違う二人)

リュウガさんお借りしました!     

これは恋というのだろうか




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